<ボーイング>

787の引渡し日程遅れる

 

 かねて懸念されていたボーイング787の引渡し開始の日程は、ついに遅れることになった。

 ボーイング社は5日ほど前、初飛行は本来予定された今年8月から12月なかばへ遅れるとしながら、それでも量産1号機の全日空への引渡しは予定通り来年5月に行なうと言明していた。しかし、それから1週間もたたずして、この10月10日、引渡し開始は半年遅れの2008年11月末か12月になると発表した。

 原因は機体構造部分を結合する複合材製のファスナー製造の遅れや、ハニウェルが担当する操縦系統のソフトウェアの遅れなどのためという。

 これで787の飛行試験はほぼ1年間で行なうことになる。ただし試験の途中で何が起るか、全てが順調に進むとは限らず、今後なお予断は許されない。ちなみに飛行試験が短期間で仕上がった例としては、777が初飛行から11ヵ月で型式証明を取得している。

 それにしても、787は機体の重量にして半分がカーボンファイバーの複合材である。従来のアルミ合金製と異なり、全く新しい技術が使われているわけで、それだけに試験飛行中に何らかの問題が起っても不思議はない。大型旅客機に複合材を多用するのは787が初めてで、前例がないだけに不安も残る。

 先日も、ボーイング社の元技術者が「プラスチック・プレーンは危険」という発言をして注目された。これを受けて、英「フライト・インターナショナル」誌は9月末「複合材製の航空構造は信頼できるか」という読者アンケートをおこない、「できる」59%、「できない」41%という結果となった。無論ほとんどは感覚的、印象的な回答であろうが、航空機の信頼感が6割程度というのは決して小さな問題とはいえない。ただし、当然のことながら、ボーイング社の幹部は「787の技術については絶対の確信があり、最終的には成功に達する」と語っている。

 ボーイング787は全日空や日航を初め、世界のエアラインおよそ50社から710機の注文を受けている。そのうち15社が引渡し遅延の影響を受けるもよう。特に全日空、ノースウェスト航空、そして中国のエアライン各社は、来年8月の北京オリンピックに際して787を使うことを考えていたため、影響は大きい。

 このような影響を受けたエアラインにとって、引渡しの遅れはボーイング社の契約違反ということになり、何らかの補償問題が出てこよう。それがどのような形になるか、まだ何も決まっていない。しかし、この遅延によって受注契約が取消しになるようなことはあるまいというのが大方の見方である。

 ボーイング787は2003年末、同社役員会の決議によって開発がはじまった。開発費は100億ドル(約1.2兆円)と見積もられ、そのうち60億ドルはボーイングの自己資金、40億ドルはは外部のリスク負担のパートナーから供給されている。

 以上が10月10日付けのニュースだったが、翌11日のニュースでは787の初飛行がさらに遅れて来年春になりそうだという見方も出てきた。

 ボーイング社の9月の発表では、787の初飛行は6〜10週間遅れるということだった。それが10日のニュースで上述のとおり12月なかばになり、翌日には2008年3月か4月頃というのである。本当にそうならばボーイングの名声は大きく失われることになろう。

 新しい開発機の引渡しがこれほど遅れたことは、無論これまでない。わずかに1989年、747-400について3ヵ月の遅れがあっただけで、今回はボーイング史上最悪の事態といえよう。

 いうまでもなくエアバスは、A380の引渡しが2年ほど遅れたため、2010年までに合わせて60億ドル(約7,000億円)の損失を出すことになった。ボーイングの方は、利益を損なうようなことはないと言明しているが、果たしてどうだろうか。

 たとえば2008年は30〜35機の787が引渡されることになっていた。それが今や2009年になったのである。それでも利益はさほど損なわれないというのは、当初の引渡し機についてはもともと利益が出るような計画にはなっていなかったからという。新しく開発した機材で最初から利益が出るようなことは考えてなかったというわけで、言い回しとしては分かるものの、いささか腑に落ちない理屈ではある。

 さらに、ボーイングはつけ加える。引渡しの開始は遅れても、量産機の生産は予定の通りに進めて、2009年末までには109機の787を完成させる、と。これは当初の生産計画よりも3機少ないだけで、相当な無理があると見るむきも少なくない。

 けれどもボーイングは、たとえば豪州カンタス航空に対しては、引渡し開始は遅れても2009年中には契約通り15機を納入すると通告している。それが出来るのは、今問題となっているファスナーやソフトウェアも1号機だけの問題であって、いったん流れはじめれば後の流れは遅れることはないからというのである。

 ボーイングの強気と楽観は依然衰えていない。

【関連頁】

     迷走するボーイング787(2007.9.8)

     苦闘するボーイング787(2007.8.31)

(西川 渉、2007.10.12)

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