迷走するボーイング787

 

 ボーイング787が、なんだか迷走しはじめた。初飛行は早くて11月なかば、もしくは12月なかばまで遅れるという。

 787がファンファーレと共に華々しくロールアウトしたのは2ヶ月前の7月8日であった。しかし、あの祝賀ムードの中で、ボーイング社の幹部の顔色は必ずしも良くなかった。外観は立派に出来上がった初号機だが、実は中味に問題が残っていたのである。

 ひとつは取りつけ金具の不足で、胴体と主翼に使う何千個ものリベットがまだ出来ていない。ロールアウトした機体も仮のファスナーで留めてあったのだ。もうひとつは操縦系統のソフトウェアの制作が遅れていた。したがってあの時の787にはアビオニクスが取りつけてなく、配線もしてなかった。

 こうしたことからボーイング社は先頃、初飛行は9月末か10月初めまで遅れると白状せざるを得なくなった。それが、さらに2ヵ月遅れになるというのである。

 787の本来の初飛行は8月末に予定されていた。そして9ヵ月間の試験飛行を経て、来年5月、量産1号機を全日空へ引渡すことになっていた。この全日空向け初号機の引渡し日程は今も、来年5月から変わっていない。あくまで予定通りに引渡すと頑張っているが、そうだとすれば試験飛行の開始から半年ほどのうちに型式証明を取らなければならない。そんなことができるのかどうか首をかしげる向きも多い。

 同じようなことは2年前、エアバスA380の開発でも起こった。A380の場合は、しかし、量産機の製造につまづいたのであって、原型機の製作は予定通りに進み、型式証明もさっさと取得してしまった。ボーイング787は、それとは異なり、もうひとつ前の段階、原型機の製作につまづいたのである。

 1年前、ボーイング・シアトル工場を訪れた際、ご案内をいただいた幹部のお一人にA380のつまづきをどう思うか訊いた。反応は「新しい航空機の開発には、よくそういうことが起こる」というもので、さすがに紳士的な答えであった。競争相手をけなすような言葉はひとつもなく、むしろ同情するような口ぶりに聞こえたが、今度はボーイングの方が同情される事態になってきた。

 ボーイング787は最近までに、世界のエアライン48社から706機の注文を受けている。


組立て中のボーイング787

 【関連頁】

   苦闘するボーイング787(2007.8.31)
   パリの空の下セーヌは波立つ(2007.8.20)
   ボーイングを訪ねて(2006.12.13)

(西川 渉、2007.9.7)

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