<ボーイング>

787の初飛行延期へ

 ボーイング787の初飛行延期という不意のニュースから1日たって、ようやく具体的なことが分かってきた。今や6月中の初飛行は夢と消え、いつ飛べるのか分からない。見通しが立つのは数週間後になるという。

 787の構造部分の強度について、問題が見つかったのは5月末だったらしい。強度試験中に構造上の異常値が見つかったのである。いらい問題点の分析が続けられ、パリ航空ショーの期間中も検討を重ねて、ついに先週末「構造部分の一部の強化をしなければ飛行できない」という結論に達したのであった。

 ボーイング社は、しかし、この問題は解決可能で、手が着けられないようなことではないという。

 この問題がなくとも、787はすでに2年近い遅れをとっている。おそらく新しい航空機の開発史上、これほどの遅延は初めてであろう。目に見えない不信感が渦巻きはじめた。

 というのは、つい数日前パリ航空ショーで、ボーイングのトップが「787は今日にでも飛べる。しかし慌てることはない。今月中に飛ぶだろう」と明言したばかりである。この人は5月末から生じていたという問題を知らなかったのだろうか。それとも知っていて、内心の不安をかかえながら、それをかき消すような発言をしたのだろうか。彼はパリからシアトルに戻るや、直ちに初飛行の延期を決めたのであった。

 その結論が出たのは、おそらく6月23日朝のボーイング社内会議であった。問題の所在について詳しい説明がなされたが、その内容は、主翼と胴体の接合部分の上部に貼った強度試験用のストレイン・ゲージに、予想外に強い応力が生じたということ。

 この応力異常は各主翼の約18ヵ所ずつに見られるという。いずれも1〜2インチ四方の範囲で、この部分は主翼が三菱重工製、胴体が富士重工製であった。具体的に重層になった複合材の剥離のようなことが起きているのかどうか、ボーイングは明らかにしていないが、その異常は目に見えるらしい。

 しかしボーイングは、これは決して新しい複合材の多用といった根本的な問題ではないと強調する。問題箇所の周辺を強化して、必ず修復できる。それも少数の部品を使うだけで、作業も簡単。また、この修復によって機体重量が増えるといっても、きわめて微々たるもので、飛行機の性能に影響するような問題ではないという。

 それにしても、初飛行まで数日という土壇場にきて、飛行延期とはどういうことか。誰もが驚くと同時に、ボーイングへの不信感を抱くことは間違いない。

 この問題による日程の遅れについて、ボーイングの幹部の中には非公式に、半年ほど遅れるのではないかという人もあるが、外部では1年ほど遅れ、量産機の就航は2010年末か2011年初めになるだろうという見方も出ている。

 さらに再び三度び、下受け企業への委託の是非についても論議が出るであろう。労働組合の幹部はすでに「外部委託というものが如何に難しいか。会社も骨身にしみて分かったであろう」と語っている。

 ボーイング787は、きわめて野心的、先端的なプロジェクトである。複合材の多用もそうであったし、その開発と製造を世界中のメーカーに委託したことも、ボーイングはむしろ誇りとしてきた。技術者たちは、その困難な仕事を立派にやり遂げたというのが、パリ航空ショーでのボーイング・トップの言葉だった。

 それが完全にひっくり返って、さすがの全日空も黙っていられなくなった。「いつになったら飛ぶのか、今後の日程をすみやかに決めてもらいたい」という声明を出したのである。


地上試運転中の787原型機

これまでの787開発日程変更の経緯

    

初飛行

引渡し開始

当初計画

2007年8月27日

2008年5月

変更(07年10月)

2008年3月

2008年11〜12月

変更(08年1月)

2008年6月

――

変更(08年4月)

2008年10〜12月

2009年7〜9月

変更(08年12月)

2009年4〜6月

2010年1〜3月

変更(09年6月)

[資料]シアトル・タイムズ、2009年6月24日

[関連頁]

   ボーイング787の初飛行延期か(2009.6.24)

   ボーイング787まもなく初飛行(2009.6.22)

(西川 渉、2009.6.25)

 

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