<パリの空の下>

切り結ぶ両雄

 

 パリ航空ショーを間近にひかえて、エアバス対ボーイングの対決が白熱の度を増してきた。

 ご承知のように、A380超巨人機が去る4月27日に初飛行したが、その前後からボーイング787中型長距離機の受注が急増し、最近までの受注数が一挙261機に達した。発注エアラインは21社に上る。この調子でゆけば、今年の受注は5年ぶりにボーイング社がエアバス社を抜くと見られるに至った。

 ところが、ここにきてエアバスA350が再び三度び設計を改め、パリ航空ショーでは787を上回る設計内容を発表し、さらに100機を超える受注数を明らかにするという構えを見せている。

 A350の設計は、エアバス社によれば、昨年12月以来3〜4回にわたって変更されてきた。当初のA350はA330の派生型で、同じ胴体を使い、主翼とエンジンが変わるだけであった。

 しかし今や、新技術の採用によって主翼の6割を複合材とし、機体重量を8トンほど引き下げる。胴体を改めて内部のキャビン幅を広げる。航続距離を伸ばし、座席コストを下げて経済性を高める。また乗客の快適性向上のためには、キャビンの照明を改め、窓を大きくするなどの工夫も加える。

 これでA350は派生型や改良型ではなく、「全く新しい航空機」として登場することになった。部品の9割も新しいものになる。

 一方、A350の販売に関しては、今のところ10機だけの受注だが、まずは経営難にあえぐUSエアウェイズに2.5億ドル(約270億円)の融資をしてアメリカ・ウェスト航空との合併を促進し、その見返りとしてA350の注文を受けるもよう。機数は明らかにされていないが、20機程度と見られる。

 この取引きは、エアバス社の長年の顧客だったUSエアウェイズを倒産の危機から救うと共に、自らの製品を伸ばす一石二鳥の策といえよう。しかし、その一方で30機の注文を受けていたA320の引渡し時期を延期することにもなり、エアバス社の払う犠牲も大きい。それだけに、エアバスの米国市場に対する並々ならぬ執念がうかがえるところである。

 またエアバス社は、中東エミレーツ航空とカタール航空からそれぞれ大量60機の発注を期待している。さらにリース会社からの発注も期待される。

 なお、エアバスA350は下表の通り、A350ー800(353席)とA350-900(300席)の2種類がある。前者は航続距離16,000km余りで、787-8(223席)にくらべて1席あたりの燃料効率が4%高いという。初飛行は2010年なかば。

 A350-900は航続14,000km足らずで、2010年末に初飛行の予定。

 これで量産機の引渡し開始は、競争相手の787-8より2年以内の遅れだが、787-9より早くなる。さらに座席数は1割ほど多い。したがってA350は、現用A330の派生型や改造型ではなく、全く新しい設計であり、費用面でも収入面でも787より有利というのがエアバス社の主張。

 販売目標は400〜500機。

    

A350-800

A350-900

最大離陸重量(トン)

245

245

最大着陸重量(トン)

182

192.5

最大燃料搭載量(リッター)

139,100

139,100

エンジン出力(トン)

285〜340

285〜340

航続距離(km)

16,300

13,900

標準座席数(席)

253

300

就航予定

2010年7月

2010年末

標準公表価格(百万ドル)

153.5

170.5

[資料]英フライト・インターナショナル誌、2005年6月7日号

 パリの空の下で、両雄の対決は、さて、どうなるだろうか。

(西川 渉、2005.6.10)

【関連頁】

   エアバスA350に初の注文(2004.12.23) 
   エアバスA350の開発決定(2004.12.14) 

 

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