<2003年実績>

エアバス対ボーイング 

  

 欧州エアバス社と米ボーイング社の大型ジェット輸送機に関する2003年実績が出そろった。

 両社を合わせた生産実績は586機で、金額にして443億ドル(約5兆円)に相当する。しかし前年実績の684機に対して14%減となった。ただし金額的には、前年が459億ドルだったから、さほど下がったわけではない。

 もっとも両社の生産数は、1999年が合わせて910機、2001年が850機だったから、2001年秋の9.11テロ以来の落ちこみはやはり大きいといわざるを得ないだろう。

 欧米両社を別々に見ると、下表のとおり、エアバスの生産数は303機から305機へ増えたのに対し、ボーイングは381機から281機へ大きく減少した。金額的にもエアバスは185億ドルから243億ドルへ増えたが、ボーイングは274億ドルが200億ドルへ減少した。これでエアバス社は、機数ばかりでなく、金額的にもボーイング社を追い越し、名実ともに第1位となった。

   

エアバス

ボーイング

2003年

生産数

305

281

受注数

284

240

変更数

-30

-1

純受注数

254

239

受注残

1,454

1,110

2002年

生産数

303

381

純受注数

233

176
(単位:機数)

 受注面では、エアバスの場合、総数284機の注文を受けたが、30機のキャンセルがあり、純受注数は254機となった。それでも前年の233機を上回る。一方、ボーイングは純受注数239機でエアバスには及ばないものの前年の176機を大きく上回った。

 金額的には、エアバスの純受注額が299億ドル、ボーイングが164億ドルとなった。エアバスにくらべてボーイングの金額が低いのは、純受注数239機のうち206機が737のためであろう。一方のエアバスは、A380超巨人機(555席)だけでも34機を受注しており、このあたりが大きな差になったものと見られる。なおA380の受注総数はこれで129機となり、採算分岐点までほぼ半分に達したという。

 2004年の見こみについて、エアバス社はこれまでの2年間と同様300機程度の生産を予定している。ボーイング社の方は275〜290機の予定である。そして2005年には300機を超える見通しを立てている。

 しかし、その頃になればA380の量産が始まるため、エアバスの市場占有率(シェア)は2003年の54%から6割を超えるところまで増加し、ボーイングを4割以下に抑え込む可能性もあると見られている。

 これに対して、ボーイング社は目下7E7(250席)の開発に向かっているが、どこまで巻き返しができるか。ちなみに7E7は、先ず日本からの受注を最大の目標としており、英『フライト・インターナショナル』誌(2004年1月27日号)によると、去る11月、日本航空へ提案され、懸命の売りこみがつづいた。しかし日航では12月なかばの役員会で決まらず、今年6月末の株主総会以降に結論を持ちこすことになったという。

 一方、全日空は近距離用の7E7を望んでおり、その具体的な計画が出るのを待って、発注するかどうかの検討をするもよう。


ボーイング7E7

 エアバス社は民間部門でボーイングに勝っただけではない。軍用機についても昨年来2度にわたってボーイング社を圧倒している。

 先ず昨年5月、エアバス社はA400M軍用輸送機について欧州7か国から注文を受けた。230億ドル(約2.5兆円)の契約高である。ボーイング社の方はC-17カーゴリフターで対抗したが、敗退してしまった。

 そして、最近は英空軍向けの空中給油機エアタンカーでもボーイング社と競争して勝利をおさめた。この競争にあたり、ボーイング社は英国のBAEシステムズと組み、英国航空で余剰となった19機のボーイング767旅客機を買い取り、それをタンカーに改造するという提案を出していた。

 それに対してエアバス社は、17機のA330旅客機をタンカーに改造することで、240億ドルの注文を受けたもの。767に対してA330の方が経済的だったばかりでなく、搭載量が大きく、航続距離も長いというのが受注の理由。

 タンカーについては米国内でも、ボーイング社は失策を演じた。国防省との間で100機の767タンカーをリースする契約を結びながら、スキャンダルが発覚して、棚上げとなったもので、これは広く報道された通り。ボーイング社の財務担当役員が国防省の高官との間で連絡を取り合っていたことが明かとなり、高官は退職、財務担当役員は解雇され、ついにはボーイング社のコンディット会長も辞任せざるを得ない結果となった。


A400M

 だがエアバス社も手放しで喜んでばかりはいられない。ひとつはドル安の傾向が強まってきたことで、飛行機の売買は原則としてドルで契約されるから、ユーロやポンドで稼がねばならない欧州勢にとっては不利になる。エアバス社は機体価格をユーロで決めたいとしているが、現実にはむずかしいであろう。

 もうひとつはA380について、日本からの注文がないこと。日航も全日空も、大型ジェット旅客機については世界で最も多くの機材を保有しているが、機種としてはボーイングにかたよりがちで、エアバス社の苛立ちと不安はつのるばかりである。

 両雄の激突は、今後も幾多の余波を巻き起こしながら、しばらくは収まらないであろう。

(西川 渉、2004.2.2)

 エアバス対ボーイング(2003.8.5)

 エアバス対ボーイング(2003.8.3)

 


エアバスA380

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