<中国航空事情>

上海で見た病院ヘリポート

 12月なかば上海で由緒ある病院の屋上に設けられた救急用ヘリポートを見せて貰った。紹介も何もなくて、駄目で元もとと覚悟を決めて出かけて行ったが、院長秘書の手配で快くご案内をいただいた。受付に出した名刺「救急ヘリコプター病院ネットワーク」(HEM−Net)の中の「救急」と「病院」の文字がモノを言ったのかもしれない。

 このヘリポートは市内の崋山病院屋上にあって、2004年9月フォーミュラーワン自動車レース開催にそなえてつくられたものという。病院前の道路から見上げると、地上12階建てであったか、高い建物の上に円形の着陸帯が張り出している。あとで直径26mと聞いた。写真に見られるように、中国語では崋の字は化けるの下に十、病院は「医院」となる。ローマ字ではHUASHAN HOSPITALと書いてある。

病院正面の大きな表示。昔ながらの漢字で書いてある。

 ヘリポートに上がって見ると、白い十字の中に赤いHの文字。正規の病院ヘリポート・マークである。その周囲、円形に着陸帯の境界灯が埋めこまれ、外側6ヵ所に夜間照明が低く着陸帯を照らすように設置されている。

 着陸可能なヘリコプターの総重量は5トンまで。

 着陸帯を照らす夜間照明。上空から接近してくるパイロットがまぶしくないように、上側がおおわれている。この照明設備はパイロットが機上のスィッチで無線操作により点灯できるとか。

 ヘリポート横に設置された昇降装置。普段はこのように平らだが、患者をのせたヘリコプターが着陸すると白い箱が油圧で持ち上がって、その中にストレッチャーを入れる。つまり下から持ち上げるエレベーターで、これにより患者は2階分ほど下がり、そこで本来のエレベーターに乗り換えて、階下の集中治療室へ運ばれる。

 この昇降装置を含めて、ヘリポートの建設費は2004年の完成時で140万元だったという。1元16円とすれば、2,240万円である。ちなみに、この建物全体の建設費は3億元くらいだったらしい。

 崋山病院ヘリポートの全景。インターネットで見つけた写真である。その説明によると、この写真は2004年7月13日に撮影したもの。同年9月26日、上海で開催されたフォーミュラーワン自動車レースにそなえてつくられたという。

 案内をして貰った病院の基礎科長さんによると、そのとき1回使ったが、後は一度もない。こんなに立派な施設が勿体ないではないかというと、病院としてもヘリコプター救急はやりたいが、政府の飛行許可が出ないという答えだった。

 なお、フォーミュラワンで1回使ったというのは訓練のための発着だったのではないだろうか。実際の救急飛行はまだおこなわれていないのではないかと思う。自動車レース場からここまで、ヘリコプターで15分だそうである。

 ヘリポートのある新しい建物の横に残された「優秀歴史建築」――1910年というから95年前に建てられた創立当初の病院施設。

 上の写真左下に見える「優秀歴史建築」の説明。

  この建物は、今では迎賓館や会議室として使われているらしい。内部はまことに立派で、廊下には歴代院長の肖像画が並ぶ。

 賓客を迎える部屋のひとつ。中国というよりは古い欧米の雰囲気で、戦前の上海の面影がしのばれる。この病院自体アメリカの指導でつくられたらしい。

 中国は今、先にも書いたように車が増え、信号無視が多く、人や自転車やバイクも混然として走り回っている。そのため交通事故死は毎年10万人を超え、今後も車の増加と共に死者も増えるものと見られている。広い国土と多大な人口を考え合わせるならば、救急体制はヘリコプター抜きには効果をあげられないはず。

 国内唯一の崋山病院ヘリポートの活用はもとより、こうした施設をこれから大急ぎで増やしてゆく必要があると思われる。

【関連頁】

   国家の正体(2005.12.19)
   北京と上海(2005.12.17)

(西川 渉、2005.12.26)

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