コンコルドスキーの墜落
コンコルドスキーの墜落
上の画像が山野さんから転送されてきた。アメリカ人の作らしい。コンコルドの事故がタイヤのパンクに起因することはだんだん確実になってきたが、その断片が燃料タンクを突き破り、そこから噴き出した燃料に火がついて、１分30秒後に墜落したのである。タイヤ・メーカーの名前にファイヤ（火）という文字が入っていて、しかもストーンとくれば石のように落ちるほかはない。
そういうブラックジョークかと思われるが、実はエールフランスのコンコルドのタイヤはグッドイヤー製であった。また英国航空のコンコルドはダンロップ製のタイヤを使っているから、ファイヤストンは濡れ衣である。もっともファイヤストン製ならば、このようにうまく飛びますという意味かもしれない。
タイヤをパンクさせたのは長さ40ｃｍくらいの金属片という。それが315km/hの高速で疾走するコンコルドのタイヤを切り裂いた。「いったい何故そんな危ないものが滑走路の上に落ちてたんだ。ドゴール空港の管理者は何をしてんだ。この間もフランスの献血からＨＩＶの感染者が出たけれど、献血の安全もチェックできないフランス野郎がまたしても同じへまをやらかした」
これは、ごく真面目な新聞、英『フィナンシャル・タイムズ』のサイトに出ていた投書である。血液製剤のＨＩＶを放置していた問題は日本でも他人事ではない。先の本頁にも書いたように、海峡をはさむ国家間にはどうしても猜疑心が芽生えるらしい。投書したイギリス人が怒っているのも、上のような事故原因が明らかになるにつれて、８月15日ついに英国航空のコンコルドも運休を余儀なくされたからである。英航空当局（ＣＡＡ）が、タイヤのパンクぐらいで安全が損なわれるようでは耐空証明を取り消すほかはないと言い出したのだ。
では、パンクしても大事にならぬようにするにはどうすればいいのか。脚とエンジンと燃料タンクの詰まった翼など、それぞれの位置関係や隔壁構造について大幅な改修が必要になるかもしれない。老齢化の進んだコンコルドが、そんな大手術に耐えられるのか。どうせ５年か10年で寿命が尽きるはずだし、仮に改修するとなれば長期間の運休が必要といった問題が出てきたのである。
ところで、ファーンボロの会場で配られたニュース紙に、コンコルドの事故に並べて、昔のソ連の超音速旅客機ツポレフＴｕ-144の事故が思い出されると書いてあった。どういう魂胆かは知らぬが、悪いのは自分だけではない。あっちだって同じようなことをやってるぞという、西側の八つ当たりかもしれない。
確かに、この二つの事故の間には共通点らしきものが見られる。どちらもパリ郊外に墜落し、地上の人を巻き添えにして、搭乗者は全員死亡。そして、どちらも大航空ショー開催期間中の事故である。
ことのついでに、Ｔｕ-144のの顛末をもう少しよく見てみよう。この飛行機は余りによくコンコルドに似ていたため、西側世界では「コンコルドスキー」というあだ名で呼ばれた。むろん偶然似たのではなくて、当時のスパイがコンコルドの設計仕様書をソ連に売り渡し、それをもとにしてツポレフがＴｕ-144をつくったからである。
このことは昨年９月14日のＢＢＣニュースが報じている。それによると「1967年にソ連のＫＧＢに雇われた“エース”と呼ぶスパイがいた。彼は航空関係の技術者で、コンコルドを初めＶＣ-10やＬ-1011に関する詳細な技術仕様書90,000頁をソ連側へ渡した。その結果つくられたＴｕ-144は驚くほどよくコンコルドに似ていた。このスパイは1980年代初めに死んだ」
（Ｔｕ-144）
コンコルドスキーがパリ航空ショーで事故を起こしたのは1973年６月３日、最終日のことであった。
このときのショーには本物のコンコルドも出場していていて、初日から双方競り合うようなかたちになった。しかし飛行演技の出来は明らかにコンコルドの方が良かった。そこでショーの最終日、ソ連側のパイロットはコンコルドを上回る飛行を試みた。前の日のレセプションでも、「明日はコンコルドをだしぬいてやるぞ」と語っていた。
最終日は、コンコルドが先に飛行した。会場正面を高速で通過すると、機首をぐいと引き上げてそのまま10,000フィートまで上昇、そこで水平飛行に移った。次のＴｕ-144も全く同じ飛行をした。高速・超低空で会場正面を横切ると機首を引き起こし、ほぼ垂直に立てて急上昇に移ろうとした。そこで失速が起こり、大きく機首が下がって、急降下に入る。あわてて立て直そうとして急激な操作をしたため機体の分解がはじまったのである。
それは何万という観衆が見守る中の出来事であった。まず右翼外側が千切れ、次に垂直尾翼が吹き飛んだ。さらに機体が横転して仰向けになり、あちこちが分解した。翼の中の燃料タンクが裂けて、燃えながら落下する部品もあった。事故が起こったのは、ルブールジェ空港に近い村の上空だったため、民家10戸の屋根が落下物で突き破られ、火災を起こして、住民９人が死亡した。搭乗者も、機長を初めとする乗員６人が全員死亡した。
当時フランスとソ連による事故調査がおこなわれたが、報告書は公表されなかった。そのため単なる操縦エラーのほかに、機材の故障や何らかのスパイ行為があったのではないかなどの憶測が流れた。たしかにその通りで、フランス側は最終的にＴｕ-144のデモ飛行中に空中写真を撮るためフランス軍のミラージュ�靴鬟熟�側に無断で飛ばしたことを認めた。
それを受けてソ連は、ミラージュが飛行経路の前方にいるのを見たＴｕ-144の機長が、回避しようとして急操作をした結果、機体に過度の荷重がかかって空中分解に至ったと主張した。
真相は、しかし、はっきりしない。
さて、Ｔｕ-144は1968年12月31日、コンコルドよりも２か月早く初飛行した。そして1969年末、実際の定期運航をはじめた。当初は郵便と貨物だけの輸送だったが、1977年から旅客輸送をはじめた。しかし、パリ航空ショーから４年後、再びＴｕ-144に事故が起こった。アルマアタからモスクワへ飛行の途中に故障が発生、アルマアタに戻って着陸したが、機体は大破となった。
ソ連の超音速便がなくなったのは1985年である。しかし、それから11年後、Ｔｕ-144は米国との共同研究に供され、再び飛ぶことになった。その目的は新しい高速民間輸送機（ＨＳＣＴ）の技術研究のためであった。この研究計画にはＮＡＳＡが予算を出し、ボーイングやロックウェルなどのメーカーが参加した。1999年４月までにモスクワ近郊で32回の飛行がおこなわれた。
その後、ツポレフ設計局はボーイングに対し、研究だけではなくて実用機の共同開発を持ちかけた、ボーイングはそれに乗ろうとしなかった。ＨＳＣＴプログラムも今は中止された。それでも現在ツポレフは、Ｔｕ-144の後継機、Ｔｕ-244の研究をしている。これを使うエアラインがあれば、10年以内に新しい超音速機として飛ばすことができるという。
コンコルドとコンコルドスキーの競り合いは、次の表からもうかがえよう。コンコルドスキーの方が数字は少しずつ大きく、日取りも少しずつ早い。しかし結果としては、別にコンコルドスキーに限らないが、どうしても真似をした方が無理をする。ついつい背伸びをして失敗に終わるのである。
コンコルドとコンコルドスキーの比較
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客席数 |
140席 |
100席 |
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速 度 |
マッハ2.35 |
マッハ2.0 |
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エンジン出力 |
20,000ｋｇ×４ |
17,250ｋｇ×４ |
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製造機数 |
13機（原型機を含む） |
20機（原型４機を含む） |
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初飛行 |
1968.12.31 |
1969.3.2 |
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マッハ１突破 |
1969.6.5 |
1969.10.1 |
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マッハ２突破 |
1970.5.26 |
1970.11 |
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墜落事故 |
1973.6.3 |
―― |
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定期運航開始 |
1975.12.26（郵便、貨物のみ） |
―― |
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定期旅客輸送開始 |
1977.11.1 |
1976.1.21 |
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事 故 |
1977 |
2000.7.25 |
（西川渉、2000.8.22）
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