交通事故死は半減できる

――小 言 始 め――

 

 

 

  1月4日の夕刊に2000年中の交通事故死は9,066人になったことが報じられた。その5日前の大晦日、本頁では交通事故の死者は9,050人になるだろうという予想を書いたばかりである。もちろん私の当て推量ではなく、れっきとした警察庁の予測値である。ところが、わずかな間に同じ警察庁が大きく異なる数字を発表したのである。

 たしかに一方は予測であり、もうひとつは実績である。それに9,050人と9,066人では大した違いはないように見える。けれども昨年末の時点で12月29日までの交通事故による死者は9,004人であることがはっきりしていた。したがって、その後2日間の死亡者がざっと50人、こまかくいえば46人と見て、総数では9,050人という予測を立てたのであろう。

 ところが、この2日間の事故死はそんな少数ではなかった。予想より3割以上も多い62人だったのである。この一事をもってしても警察庁の事故の見方がその場しのぎのご都合主義であることが分かるというもの。要するに自らに甘い出鱈目――というのが言い過ぎならば、いい加減なのである。「まあ、これから死ぬのは50人くらいだろう。キリのいいところで9,050人ということにしておこう」といった程度の予測ではなかったのか。

 霞ヶ関の官僚にとって、これは単なる集計もしくは統計上の数字である。50人が60人だろうと大した違いはない。どちらでもいいことだ――というその感覚が交通事故死の削減対策に力が入らない根本原因ではないのか。

 つまり、第6次交通安全基本計画(1996〜2000年)で、年間の死者を9,000人以下にするという政府の目標が5年もかかって、なおかつ達成できなかったのは、第1に何が何でも死者を減らそうとする意思がなかったからにちがいない。

 第2に、警察が交通取締りといった予防に力を入れるのはいいとしても、事故が起こった後の救急は消防だけにまかせて、われ関せずどころか、事故のために頭を打って気がおかしくなったような運転者にいつまでもそのときの状況を問いただすといったことをしている。問われた人は大阪から岡山へ戻るつもりが、何故いまごろ浜松を走っているのか分からない、などと言い出す始末。警察といえども、原因調査の前に死傷者の救助を考えるべきではないのか。救急車の到着を待つまでもなく、パトカーでも通りがかりの車でも何にでものせて、しかるべき病院へ搬送するといったことは考えないのだろうか。

 第3に、日本の道路は良すぎる。もう少しがたがた道にすべきである。道路に穴ぼこがあると危ないというが、あれは滑らかな路面が続いている先に陥没があるから危ないのである。自動車は滑らかな道だと思って高速で走る。そこに穴があいていれば確かに危険であろう。

 しかし初めからでこぼこ道であればスピードは出せないから、多少の穴ぼこがあっても構わない。そうなれば、高速道路だって年中修理や整備をしている必要はなくなる。その分だけ費用もかからないから、道路公団だってらくだし、通行料金も安くなる。路面ばかり鏡のようにしても、どうせ渋滞しているからスピードは出せない。でこぼこ面でも同じことなのである。

 しかるに、ときどき道路がすくことがある。そうすると道が良いから運転者はついスピードを出したくなる。愛車は鏡の上をすべるように気持ちよく走る。そんなときに事故が起きる。夏の北海道で事故が多いのは、そういうことではないのか。道路は余り気持ちよくならぬよう、でこぼこにすべきである。

 アメリカのハイウェイやフリーウェイが如何に発達しているといっても、日本のように美しく滑らかな路面は見たことがない。大体はざらざらである。けれども道幅が広いから余裕があって、それだけ安全性は高くなる。日本は道幅がせまいうえに路面ばかりが滑らかだから却って危ないのである。スピード違反の取締まりに力を入れるよりは、初めからスピードが出せぬようにすべきであろう。

 同じ意味で、住宅地の道路にはところどころに盛り上がりをつくってもらいたい。車はちょっと走っては、すぐにブレーキをかけて盛り上がりを乗り越えなければならない。そうすればスピードが出せぬばかりか、走る気持ちも減退するであろう。結果として付近の住民や歩行者の安全が確保される。

 現に我が家の近所でも、ときどき猛スピードで走る車がいる。住宅地だから歩行者が少ないうえに、路面だけは滑らかだから、ついアクセルを踏みたくなるのであろう。ときには、そういう車がカン高いブレーキ音を立てて人をはね、塀にぶつかったりしている。騒音と安全の両方が人びとをおびやかしているのである。

 

 いかに立派な交通安全基本計画をつくっても、かけ声だけの交通安全運動をやっても、ねずみにワナをかけるような取り締まりをしても、具体的な対策がなければ事故の数、死者の数は減らない。

 現に昨年の事故は冒頭でも述べたけれども、改めて下表の通りである。いずれも減るどころか、何もかも増加してしまった。

    

2000年実績

1999年比

死亡者数

9,066人

60人増

事故件数

837,480件

65,946件増

負傷者数

1,038,761人

84,337人増

 [注]事故件数と負傷者数は11月までの集計

 

 それにしても、同じ発表の中で死者は1年間の集計なのに、なぜ事故件数や負傷者数は11か月間の数字なのか。取り敢えず死者の数を数えるに忙しくて、負傷者までは数え切れないうちに正月休みになってしまった。おそらくそんなところだろうが、この一事をもってしても、ほんとにやる気があるのかいと言いたくなる。

 もう一度、大晦日の繰り返しになるが、事故が起こったあとの救急には是非ともヘリコプターを活用すべきである。これで必ず死者は減り、負傷者の予後も良くなり、社会復帰をする人が増えるであろう。

 10日前に小言納めをしたと思ったら、もう小言始めになってしまった。

(小言航兵衛、2001.1.10) 

 (「小言篇」目次へ (表紙へ戻る)