<憲法違反>

再び外務省不要論

「ねえ、頼みますよ。ここらで、そろそろ手を打ってもらえませんか」

「いいよ、お前さんの方が非を認めるならね」

「認めますよ。その代わり、あの5人は北には返さぬようにしてくださいよ」

「それは、こっちの問題だが、まあよかろう」

「有難うございます」

「じゃあ、日本側が間違っていたことと、感謝の意を公表してもらえるかな」

「そ、そ、それだけは勘弁してくださいよ」

 日中交渉の場に同席していたわけではないが、この2〜3日のニュースをテレビで見ているだけでも、こうした場面が想像できる。なんという情けないことか。ついに外務省は中国に全面降伏したのである。それも密かにやればいいものを、天下に大恥をさらしながら、売国奴の正体をあらわしたのだ。朝日と岩波とNHKのほくそ笑むさまが見えるような気がするが、もともと今の外務官僚たちもこれらのマスコミに洗脳されながら育ってきたのだ。

 これまで日本はアメリカの51番目の州などと揶揄された。ところが実は何時の間にか、チベットと新彊ウィグル地区に続く3番目の中国植民地となっていた。これでは領事館の不可侵を主張できるはずがない。中国の武装警官もかねてから出入り自由だったのだ。

 先日の本頁でも「瀋陽事件報告書」は信用できないと書いたが、まさしく3日もたたずして中国側の反撃に破られてしまった。小泉首相は「日本の言い分と中国のどちらを信じるのか」というが、日本を信じたくてもこれでは信じられないではないか。

 『日本国憲法の問題点』(小室直樹著、集英社インターナショナル、2002年4月30日刊)は、外務省に関する2つの事例を取り上げて、憲法違反としている。ひとつは北朝鮮による拉致問題で、「連れ去られた人たちは紛れもない日本国民」である。にもかかわらず、これを奪還しようとしない日本国政府は「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」を定めた日本国憲法第13条に違反する。いうまでもなく、外務省は拉致された国民の「自由及び幸福」を保護しようとせず、回復しようとしないからである。

 もうひとつは「田中真紀子氏に外務大臣としての資質ありやなしやは、ここではあえて触れない。だが、たとえ大臣が無能であろうと有能であろうと、官僚はその命に従わなければならない」

 なぜなら「日本国憲法第69条 行政権は、内閣に属する」からで、「国家主権の一部である行政権は内閣のものであって、官僚のものではない。したがって、大臣の命に逆らうことは国家主権に対する反逆にほかならない」「主権者への反逆は、古来大罪中の大罪。即刻、死刑に処されても文句は言えない」

 そこで航兵衛の考える第3の憲法違反は、むろん本書には書いてないけれども、今回の瀋陽事件である。思うに、この事件は外務省が日本国憲法第98条第2項に違反していたことを露呈したものだ。そこには「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守すること」と定められている。

 ここにいう条約の中には当然、在外公館への不可侵を定めたウィーン条約も含まれる。すなわち「外交関係に関するウィーン条約」(昭和39年)には、第22条第1項に「使節団の公館は、不可侵とする。接受国の官吏は、使節団の長が同意した場合を除くほか、公館に立ち入ることができない」とある。

 この際「使節団の公館」とは瀋陽の日本総領事館であり、「接受国の官吏」とは中国の武装警官ということになる。したがって警官が領事館に立ち入ることはできないわけだが、立ち入った警官が悪いとばかり一方的に決めつけるわけにはいかない。

 というのは、彼らが「使節団の長が同意した」と思っていたかもしれないからだ。この2〜3日来のニュースでも、もともと日本の領事館とその警護に当たる警官とは懇意だったようだし、「亡命者が入ってこないように充分警護してくださいよ」と依頼、もしくは話し合っていたフシもある。

 そのうえウィーン条約は、中国側ばかりでなく日本側にも遵守の義務がある。それが上の日本国憲法第98条第2項の規定だが、そもそも条約は外務省の所管である。自分の所管する条約すら、彼らは覚えていなかったのだ。あのVTRに写っていた状況が憲法違反でないとすれば、「使節団の長」すなわち瀋陽の総領事または北京の大使が警官の立ち入りに同意していたことになる。逆に外務省が主張するように、同意していないとすれば、警官の立ち入りを阻止しようとしなかった副領事や職員は憲法に定められた条約遵守の義務に違反している。 

 いずれにせよ、彼らの頭の中にはウィーン条約など天からなかったのだ。彼らの意識では日本はもはや中国の植民地だからである。警官だろうと何だろうと公館への出入りは自由だったし、駆け込んだ亡命者を連行するのも感謝こそされても、阻止されるはずはなかったのである。

 こうして次々と憲法違反を重ねる外務省は、著者のいう「即刻、死刑」、すなわち解散、廃省以外にはないであろう。ここに再び外務省不要論を提議するゆえんである。

(小言航兵衛、2002.5.17)

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