<ファーンボロ2008>

受注競争の結果

 

 ファーンボロ航空ショーでは2大メーカーの間で激しい受注競争が演じられた。その結果エアバスはおよそ250機を受注、ボーイングは約200機の注文を受けた。

 これらの注文は先の本頁にも書いたように、ほとんどが中東産油国からのもので、メーカーとしてはどこからの注文だろうと有難いのだろうが、燃料高騰の被害者としてはどうも余り面白くない。世界中が困っている中で、中東諸国だけが異常にうるおっていることはドバイの異様な建築様式を見てもよく分かる。

 いずれにせよ両メーカーの受注量は予想以上に大きく、予想通りだったのはアメリカとヨーロッパからの注文が少なかったことだけで、ファーンボロの会場では、メーカー両社の陽気な騒ぎだけが目についた。

 最も高額の注文を出したのはアブダビのエチアド航空で、メーカー両社へ平等に、合わせて200億ドル(2兆円余)相当の注文を出した。またリース会社からの注文も多かった。燃料価格が高騰して先行きの見通しが立たない状況では、エアラインとしても自分で航空機を買い入れるよりはリースにしておこうというところが増えるためという。

 それに、リースをできるくらいならまだいいが、今年は倒産するエアラインも増えるだろうと見る人も多い。とりわけ青息吐息のアメリカのエアラインは数多く倒産に追い込まれると見られる。というのも彼らは激しい競争下にあり、しかも旧い機材が多いので燃料費がかさむ。そのうえドルが弱いために、ますます高い燃料を買わされるという状況に追い込まれているからである。

 こうした状況は、しかし、アメリカばかりでなく、英国航空も「おそらく航空史上最悪の危機」だとして飛行便数を減らしはじめた。香港のキャセイ・パシフィック航空もインドの各航空会社も赤字が出ている。

 世界のエアライン業界は今年1年間で総額60億ドル(約6,500億円)の損失になるというのがIATAの予測。すべては産油国に吸い上げられたということであろう。

 ともかくも石油危機のさなかでの受注ブームである。結果としてボーイングとエアバスの両メーカーの受注残高は史上最高に達した。この受注分をこなすのに、エアバス社の場合、向こう6年はかかる。そのため2010年までに生産量を15%増やす計画を立てている。

 増産計画を立てるのはいいが、キャンセルのおそれはないのかという質問に対して、ボーイングの答えは今の受注残高のうちアメリカからの注文は1割に過ぎないというものだった。

 おまけに、よく売れているのはボーイング737やエアバスA320である。これらは今のところ最も経済的とされている。エアラインの中には同じクラスで、いっそう経済的な単通路機を望む声もあるが、ボーイングもエアバスも当分、新しい機材を開発する考えはない。ここまでよく売れているのに、その売れ行きを削ぐような新機種をつくる理由はないというのが理由である。したがって、1年ほど前は2015年頃の就航をめざして新しい単通路機の開発が始まるのではないかという見方もあったが、今や早くても2018年ということになった。

 もうひとつ、新機種の開発が先延ばしになる理由は、両社の技術陣がA350XWBや787の開発に手を取られているためだ。エアバスとしてはA350XWBをどうしても2013年までに実現しなければならないし、ボーイングにしても787の開発がまだ軌道に乗ったわけではない。

 だがメーカーの方も受注数ばかりを強調し、自慢しているわけにはゆかなくなった。かつては旅客機でも戦闘機でもビジネス機でもヘリコプターでも、いかに大きく、いかに速く、いかに強力であるかがセールスポイントであった。しかし近年、燃料が高騰し地球環境が悪化していることから、ファーンボロでは如何に燃料を食わず、如何に大気を汚さず、如何に経済的であるかが売り込みのポイントとなった。

 たとえばボンバーディア社は「新しい地球、新しい飛行機」のキャッチフレーズで新しいリージョナルジェット、Cシリーズを売り出した。同機は従来の同級機にくらべて燃料消費が2割ほど少ないという。超巨人機A380ですら「機内も機外も環境にやさしい」と叫んでいる。

 だが、問題はさほどやさしいわけではない。真に地球にやさしい航空機をつくるには、航空機メーカーもエンジン・メーカーもこれから多大の費用と時間をかけて開発努力をつづける必要があろう。というのも、これまでメーカー側は環境問題に気づいていなかった。そこを環境保護団体や各国政府から指摘されて、あわてて何とかしなければという状況になってきたのである。

 たとえば2年前、同じファーンボロ航空ショーで、ボーイングは「ジェット・エンジンを動かすのに、ケロシンに代わる燃料はない」と語っていた。無論いまでは、ボーイングもバイオ燃料の研究開発に取り組んでいる。トウモロコシのような食料を原料にするわけにはいかないが、食料以外のナンヨウアブラギリ(南洋油桐)や1日で2倍に成長する藻類を原料とする植物性の燃料である。しかし決め手は、まだ見つかっていない。

 取りあえずは、従来と同じケロシンを使うものの、その効率を高めるようなエンジンの開発が進みはじめた。プラット・アンド・ホイットニー社のギアド・ターボファンPW-1000Gがその一つといえよう。ファンの不要な回転数を落とすことによって燃料消費を減らし、発熱量を減らし、騒音を減らして、大気汚染を減らすというものである。

 折から、ヨーロッパ連合(EU)は、欧州圏内を発着する航空会社には2012年から、温室効果ガスの排出枠を割り当てることにした。この決定に正面から反抗するのはちょっと難しい。それだけに原油高に苦しむ航空界は、もうひとつ新たな苦難に立ち向かわねならないくなった。

【関連頁】

   ファーンボロの受注競争つづく(2008.7.19)
   ファーンボロで激しい受注競争(2008.7.17)

 (西川 渉、2008.7.22)

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