<小言航兵衛>

ビジネス機の受難

 またしても、ビジネスジェットが槍玉にあがった。

 経営に行き詰まった金融機関シティグループがアメリカ政府から450億ドルの援助を受けながら、ビジネスジェットの購入を予定していたことが表面化したためだ。

 発端は1月27日付のニューヨーク・ポスト紙ではないかと思われる。「愚かな(フール)シティグループ、援助金で5000万ドルのジェット機を購入」と大きな見出しをつけて報じたことから火がついた。

 連邦議会でも非難の声があがる。

「昨年は52,000人もの社員を解雇したうえ、納税者に助けて貰いながら、贅沢なビジネスジェットを買おうなどとは、いったいシティグループの役員どもは何を考えておるのか。恐らくKY(空気が読めない)連中の集まりに違いない」

「つい先日も、自動車メーカーが前から持っていたものですら、ビジネスジェットの売却を求められたばかりじゃないか」

「今すぐシティグループへの援助をやめるよう、財務長官に要求したところだ。企業援助については、もう少し基準をきびしくする必要がある」

 オバマ新政権も、これはいかんと思ったのか、シティグループの幹部を呼び出し、ビジネスジェットの購入について「善処するよう」求めたという。

 これでシティグループとしても、直ちにビジネスジェットの発注をキャンセルすることとし、「もう新しい航空機を買うつもりはない」と発表した。

 同時に広報担当者のいわく「政府から貰った資金で買うわけではなかった」。というのは、この飛行機ダッソーファルコン7Xは2年前に発注したもので、景気高揚の当時は無論いまのような経済不況の兆候はない。価格の5,000万ドル(約45億円)は一見して高いようだが、従来から保有していたビジネスジェット4機とヘリコプター1機のうち老朽化した機体の整備費など、運航費が割高になってきた。そのため古くなった2機を売却し、その代わりに運航費の比較的安いファルコン7Xを買うことにしたもの。

 12人乗りの同機は豪華な内装をもち、柔らかな革張りソファ、厨房、映画や音楽などの娯楽設備がほどこされ、所有者の権威と威信を示すものでもある。

 航続距離は11,000km。シティグループの本社があるニューヨークを起点にすれば、欧州全域、南米全域、そしてハワイまで直行できる。

 この発注キャンセルにあたって、シティグループは1割程度の違約金を払わなければならない。このキャンセルについて「ホワイトハウスの対空砲火をくらって撃墜された」と、過激な表現をした新聞もある。

 ところで、スイスに本拠を置くUBS投資銀行の調査によると、ビジネスジェットの動きは2008年なかばから急減しており、2008年11月の動きは前年同月にくらべて25%減、12月は19%減であった。2008年の1年間を通じては、2007年に対して12%少ないという。

 調査の対象となった飛行は、12月分の86%が米国内の動き、残りが国際的な動きであった。

 かくて、広いアメリカでは全米をまたにかけるような事業を遂行するには、ビジネス機が不可欠の移動手段とみなされてきた。しかるに今や経済不況に苦しむ余り、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いということか。ビジネスジェットまで目の敵(かたき)にされてしまった。

 とはいえ、ビジネス機は何ら悪いわけではない。それを使う連中が悪いのだ。自社の危機を危機ととらえることができず、いつもながらの行動を改められないような考えなしの不心得者がこうした事態を惹き起したのである。

 それこそビジネス機の受難にほかならない。

【関連頁】

   米ビジネス機の前途多難(2009.1.19)
   ビジネス機の前途不安(2008.12.2)

(小言航兵衛、2009.1.30)

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