<小言航兵衛>

八方美人の八方ふさがり

 ループ(loop:輪)という言葉は、航兵衛でも知っていた。航空人ならば「宙返り」の意味にも使う。けれども、その形容詞(loopy)は知らなかった。クルクルパーという意味だそうである。

 この形容詞を、ワシントン・ポスト紙が日本の首相の頭につけて "loopy Japanese Prime Minister Yukio Hatoyama"(クルクルパーの日本首相ユキオ・ハトヤマ)と書いた。

 日本政府は「一国の首相に向かって礼を失する」と抗弁したようだが、あとの祭りである。というのもハトヤマみずから国会の場で「私は愚かな総理かもしれませんが……」と公式に認めたからで、自他ともに認めるバカ宰相ぶりが世界中に知れわたってしまった。

 日本国民として、まことに嘆かわしく、かつ恥ずかしい限りである。

 今年の正月、航兵衛のいとこから貰った年賀状に、自分は相変わらず試験管を振っていますが、同級生の中には総理大臣になった男もおりますと書いてあった。東大の応用化学で一緒だったとかで、いとこの方はまだつくばの研究所にいるらしい。

 しかし聞いてみると、総理になった男はクラスの中でも余り出来が良くなかったという。卒業後はスタンフォード大学に留学したそうだが、まともに試験を受けて入ったのか、お母さんが多額の寄附をしたのか、はなはだ怪しい。

 しかし、だから悪いというのではない。母親がわが子のために最大限のことをしてやるのは当然の人情で、学費を出すのはもとより、政治資金を出すのもどこが悪いのか。それを悪いとする政治資金規正法の方が悪いのである。

 そういうと、今度は相続税法の違反だなどと、したり顔の理屈が出てくるが、そもそも親が我が子に財産を譲るのは、これまた当然。それを罪悪の如くに考えて脱税呼ばわりするのは法律の方がおかしいのであって、相続税のない国は世界中いくらでもある。戦前の日本も、こんな私有財産を認めない共産主義か社会主義のような法律はなかった。

 さて、改めて4月14日のワシントン・ポスト紙を読んでみると、表題からして"In the Loop"となっている。航兵衛の拙い英語力から判断するのだが、「輪の中で」ということだろうか。つまりオバマ大統領の呼びかけで先頃、世界47ヵ国の首脳がワシントンに集まって「核安全サミット」を開催した。その大勢の輪の中で誰がうまくやったかの意味と解する。同時に、後から本文の中に出てくるルーピーという言葉の布石にもなっている。

 コラムは先ず、この核協議の中で手柄を立て、その手柄をもって自国へ凱旋することができたのは誰かを判定している。判定の基準はオバマ大統領と対等に話をして存在感を示すことができたかどうかで、最高の勝利者は中国の胡錦涛主席であったとする。なにしろ90分にわたって1対1の対話をしたのだ。

 つづいてヨルダンの国王、マレーシアの首相、ウクライナの大統領、アルメニアの大統領などであった。さらにエジプトの外相も高得点を上げた。

 逆に「最低の敗者が日本のルーピー、ハトヤマである。彼はオバマ大統領との2人だけの会談を求めたけれども、あえなく拒否された。唯一の慰めが晩餐会の席で非公式の話をしただけ」とポスト紙は書いている。

「金持ちの息子ハトヤマは、重要な問題で日米関係を引き裂きつつあり、それがオバマ政権の不信感を買っている。沖縄の海兵隊基地の問題で、これまで2度にわたってオバマに解決を約束しながら、いまだに何の成果も上げていない」

「普天間基地の問題は長年にわたる日米交渉によって、ようやく移設先が決まった。しかるに政権が変わると、民主党が再検討すると言い出し、5月までには決着するといいながら、まだ具体策も提案も出てこない。果たしてユキオはアメリカの核の傘の下にいるつもりなのか」

「ただ一つ、ハトヤマに愛の手をさし伸べたのは中国の胡錦濤であった。ウソと思うかもしれぬが、彼らは2人だけの親密な会談をしたのである」と。

 中国との特別会談は、昨年汚沢が百何十人もの国会議員を引き連れて北京へ詣でた朝貢のお返しだったのかもしれない。

 それにしても、1週間ほど前であったか、普天間の移設先について、アメリカ側が旧案に近いもので合意しそうな意向を示したのに対し、ハトヤマはこれを否定しつつ、今度は徳之島の元自民党代議士に根回しも下話もしないまま会いに行って断られたり、まさにくるくるまいのルーピーぶりを発揮している。

 そのうえ検察審査会が、汚沢の政治資金規正法違反事件で「起訴相当」と議決したのに対し、「幹事長には引き続き頑張っていただきます」などと擁護発言をして聞くものを唖然とさせた。ここはチャンスととらえて「議員辞職を勧告したい」くらいのことはいうべきだった。そのルーピーぶりはとどまるところを知らない。

 さらに民主党そのものも、親分に不利な議決が出た途端、検察審査会の制度を改める動きを見せはじめた。この制度は司法に民意を反映させる目的で誕生し、民意の好きな民主党も法改正に賛成したのではなかったか。それが何たるご都合主義か。「泥縄」というもおろか、泥棒自身が縄をなっているようなもので、その時どきの状況に合わせて勝手にゆるめたりほどいたりしたいらしいが、そんなこと出来ようはずがない。この次のワシントン・ポスト紙は間違いなく、民主党の頭にも「ルーピー」の枕詞(まくらことば)をつけるであろう。

 かくて、わが愚かなる宰相は、国民にも沖縄の地元にもアメリカにもオバマにも党内にも汚沢にも、四方八方に無意味な世辞ばかり振りまいたあげく、ついに八方ふさがりの窮地に追いこまれてしまった。もともと宰相の器(うつわ)ではなかったのである。


八方ふさがりの面持ち

【関連頁】

   <小言航兵衛>中国文明と民主党政治(2010.4.26)

   <小言航兵衛>乗っ取られる日本(2010.4.6)

(小言航兵衛、2010.5.1)

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