<小言航兵衛>

鬱病の恐れ

 しばらく前の話だが、6月5日付の本頁に英エコノミスト誌が"Kan he do it?"という見出しをつけて笑わせてくれたことを書いた。その翌日、ヨーロッパゆきの飛行機に乗ったところ、機内に置いてあった英フィナンシャル・タイムズ紙に、今度は"Yes we Kan"という見出しがあって思わず小膝をたたいたものである。

 近くKan首相はオバマ大統領との首脳会談におもむくそうだが、そのときは先ずこの言葉を発して、初対面の挨拶としてはどうだろうか。

 そこまではいいのだが、この御仁、何を思ったか突如として消費税を10%に上げると言いだした。最近まで財務大臣だったので、おそらくは財務省の役人たちの口車に乗ったのだろうが、役人など国の側に立つ者は、税金の多い方が何かと都合がいいはず。人民どもから少しでも多く絞り取ろうと考えるのは当然のことである。

 それをできるだけ軽くして、なおかつ国民のためになる政策を進めるのが政治家の役目ではなかったのか。しかるにKanさんの言い分は、増税によって社会福祉の向上をはかるというのだが、そんなことなら福祉の向上など無用と云っておこう。

 そもそも消費税の全てが福祉に回るという保証はあるのか。今の5%の消費税は何に使われているのか。つまり消費税というのは、道路や空港の特別会計のように、福祉のための特定財源として定められているのか。そうではないまま、福祉のためというのはまやかしであろう。

 逆に、消費税を上げなければ福祉の改善はできないといわんばかりの言い方は、国民に対する一種の恐喝である。

 最近は役人のような政治家も増えたし、役人以上に悪代官みたいな政治屋もいるようだから、何かをやってやるから金を出せとか、金を出さなければやってやらんなどという脅しは、汚沢何樫の典型が示すように政治の世界ではしばしば見られるとおり。ところが、それを税制にまで持ち込むなどは言語道断。今や一国の宰相が、脅迫めいた悪代官になり下がってしまったのだ。

 しかも今日のニュースでは、その悪代官に悪知恵をつけているのが役人ばかりじゃなくて東大教授だという。なぜKanさんの出た東工大の先生ではないのか。

 東大か、頭デッカチの頭大かは知らぬが、あそこの経済学部は社会主義の温床みたいなところだし、むろん民主党も社会主義が好きで、いずれはソ連や中国のような共産体制を夢みているはずだから、税金を上げて大きな政府をつくろうとするのは当然だが、そのような連中の知恵は今の資本主義の日本では場違いというもの。

 新聞やテレビの論評を見ても、増税と社会福祉を結びつけるような言い分に賛成という評価はどこにもない。支持率が落ちるのは当り前だ。

 税金を増やさなければ政策が実行できないなどという単純な頭で何ができるのか。むしろ減税によって社会や企業を元気づけ、活動を活発化して景気の浮揚をはかり、そのことによって自然に国の税収も増えるという、そういう道筋を政治家はもっと真面目に考えるべきだ。このことは本頁でもつとに提案してある。

 しかるに今のKanさんの考えを実行すれば、増税によってますます社会や企業が活力をなくし、一種の鬱病のような状態におちいって、税金も払えなくなり、国の財政はいよいよ逼迫して赤字と借金ばかりが増える。そのようにして国力も気力も弱ってしまえば、経済的には無論のこと、政治的にも軍事的にも周辺諸国の侵略を呼びこむことになろう。民主党の本心はそのあたりにあるのかもしれぬが、疲弊しきった日本は滅亡の縁に追いこまれるだけである。

 民主党はやはり歴史的にも将来的にも、日本の国情に合わない政党であった。早いとこ、引っ込んでもらおう。

(小言航兵衛、2010.6.24)

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