<小言航兵衛>

素人が選ぶ次期主力戦闘機

 昔「バカチョン」といわれた全自動カメラが登場した頃、素人カメラマンの女優が登場して「あたしにも写せます」というコマーシャルがあった。同じように「素人にも選べます」というのが今回の次期主力戦闘機の選定であろう。

 何とかいう防衛大臣が「安全保障に関しては素人」といいながら、その席に坐ったと思ったら、なるほど大いにズブシロぶりを発揮して、沖縄の少女暴行事件を知らなかったり、ブータン国王を歓迎する宮中晩餐会をすっぽかしたり、国王の名前を知らなかったり、馬鹿まるだしの失態をくり返した。

 あげくには国会の問責決議を受けたものの、その素人が次期戦闘機をF35に決めたというのだから、日本にとって果たして正しい選択だったのか。いささか怪しいところもあるが、内実は防衛省の幹部たちが決めたうえで大臣の名前を冠したものであろう。したがって大臣がどこまで理解しているのか、おそらくは何もわかっちゃいないと思われるので、ここにF35の最近の状況を整理しておきたい。

 今回の機種選定は現用F4ファントムに代わる次期主力戦闘機(FX)を選ぶもので、多数の候補機の中からボーイングFA18/EFスーパーホーネット、BAEシステムズ・ユーロファイター、そしてロッキード・マーチンF35の3機種に絞られ、最終的にF35が選び出された。

 F35は「第5世代の戦闘機」と呼ばれ、ステルス性が高いと同時に、垂直飛行が可能で、しかも超音速飛行ができるのが大きな特徴。その始まりはアメリカの空軍、海軍、海兵隊の使用機を、ひとつの原型から発展させるJSF(Joint Strike Fighter,統合戦闘攻撃機)で、これにイギリス、イタリア、オランダ、カナダ、オーストラリア、ノルウェー、トルコなどが参加して国際共同プロジェクトとなった。参加国は開発資金を出す一方、自国でも採用することになっているので、製造規模は合わせて3,000機以上になるもよう。

 こうしたJSFは米3軍の要求に合わせて3種類の派生型に分かれる。空軍向けのF-35Aは通常の離着陸をするCTOL型(Conventional Takeoff and Landing)、海兵隊向けのF-35Bは短距離離陸と垂直着陸の可能なSTOVL型(Short Takeoff and Vertical Landing)、そして海軍向けのF-35Cは空母搭載用のCV型(Carrier Variant)である。

 この中から日本が採用するのは空軍型F35A単発単座機。最大速度はマッハ1.6。空対空戦闘はもちろん、対地・対艦攻撃、偵察、電子戦などのマルチロール(多用途)能力を備える。

 防衛省としては、こうした飛行性能もしくは戦闘能力を初め、整備性、価格、国内生産の割合などを他の候補機と比較しつつF35を選んだという。

 日本の最新鋭機の配備は、ロシアや中国の動きに対抗する狙いを持つ。ちなみにロシアはインドと共同でスホーイT50を開発しており、中国も殲20(J20)を開発中で、いずれも実用化に向けた試験飛行が続いている。

 しかしF35も未だ開発中で、実戦経験がないどころか、開発スケジュール遅延のために、コストも大幅増になる恐れが出ている。1機あたりの価格も100〜200億円というから、無闇に高い上に幅があり過ぎて本当のことは全く分からない。日本の調達機数は30〜40機の予定だそうである。

 完成は2015年とされてきた。しかし米国議会にはこれを2年遅らせる動きもあって、日本の希望する2016年度中の引渡しはきわめて難しい。こうした不確定要素を無視してF35を決めると、あとから価格高騰や納期遅延の問題が生じる恐れもあり、「無計画のそしりを免れない」とする意見もある。

 このような素人の選定の結果、問題が大きくなれば、愚かな民主党政権の責任も問われるし、その愚民党をだまくらかして、国家の防衛をよそに予算取りだけを急いだ防衛事務次官や関係課長らの責任も問われなくてはなるまい。

(小言航兵衛、2011.12.15)

 

【関連頁】

F-35の前途(2011.8.5)

万能の戦闘攻撃機ライトニングU(2007.2.19)  

(小言航兵衛、2011.12.15)

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