<エアバス>

トップの辞任

 

 昨日の本頁に、エアバスの社長が辞任するとか、いやしないとかの報道があると書いたばかりだが、今日は本当に辞任したというニュースが飛びこんできた。

 それによると、エアバスのストレフ社長は10月9日、就任から99日目で辞めたという。エアバス再建の能力がなかったという報道もあるが、今のような混乱ぶりからすれば大方の人はイヤになるだろう。それに単にイヤになったというようなことではなく、再建策を打とうにも3ヵ国にまたがる株主からさまざまな圧力がかかって、身動きできないような状態だった。権限が与えられなかったと自ら語っている。

 エアバスの株主は、形の上ではEADSだけだが、EADSは2000年にドイツ、フランス、スペインの3ヵ国の航空機メーカーが合併したもの。今になってもなかなか足並みがそろわず、子会社のエアバスとしてはそれぞれ別個に報告をしなければならなかったという。

 そんな情勢のところへ、ストレフ社長は、たとえばドイツにあるエアバス工場を閉鎖してフランスに統合しようといった合理化案を持ち出したのである。ドイツからの反発は当然、大きかったであろう。

 代わりに、新しい社長に就任したのは、親会社のEADS経営トップのルイ・ガロワ氏が兼務するらしい。元はフランス国鉄の総裁だったという。この人物について「良いニュースは経験と能力のある人材だということ。悪いニュースは改革をするような人ではないということ」という皮肉な報道もある。なにしろ古い体質を持つ国鉄に、新しい動きのないまま10年も君臨していた人である。エアバスの停滞はさらに深刻化するかもしれない。

 社長が変わったからといって、株主3ヵ国の思惑も変わったわけではない。変わるべきは、フランスとドイツの株主としての干渉をやめることだという意見もある。エアバスの混沌は、多国籍企業のむずかしさを露呈し始めた。

 なお、こうした騒ぎのせいか、エアバス機の今年1月以来の受注数は、9月末現在、全機種合わせて226機にとどまった。対するボーイングは723機と好調である。

【関連頁】

   深刻化するエアバスA380問題(2006.10.10)
   エアバス会見(2006.7.28)

(西川 渉、2006.10.11)

 

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