薬をやめる

 本頁でも時どきご報告してきたが、昨年9月初めにS状結腸がんの切除手術を受けてから1年を経過した。先日のCT検査の結果は、肝臓や肺など他臓器への転移も見られないということで、これまで続けてきた抗がん剤の服用も終わることになった。身体の調子も年齢相応にくたびれてはいるものの、さして悪い覚えもなく、10月にはアメリカでの国際航空医療学会に出かける予定を組んでいる。

 抗がん剤の終了と同時に、『薬をやめれば病気は治る』(岡本裕、幻冬舎新書、2013年3月30日刊)を読み終わった。この本は、目次に「薬は毒だと思え」「薬は体内の秩序を乱す」「薬をのむことはギャンブル」「薬をのむと寿命が短くなる」「1年間に数万人が薬の犠牲になっている」「風邪薬を飲むと治りにくくなる」「高血圧の薬は体に悪い」「抗生物質はのまない方がいい」「睡眠薬・精神安定剤は免疫力を下げる」などの項目が並び、薬というものが如何に危険なものかが書いてある。

 私自身も高校生の頃、受験勉強か何かで、よく眠れないことがあって、医者であった父に「睡眠薬をのみたい」と云ったところ、「バカなことを考えるな」といって叱られたことがある。「薬は、何であろうとのんではならん」というのが父の言葉であった。

 にもかかわらず、この1年間、毒薬とすらいわれる抗がん剤をのみ続けるはめになって、指先の皮膚が硬化して赤黒く変色したり、手のひらがサルの手みたいにしわだらけになったり、爪のつけ根から血液がにじみ出るなど、この先どうなることかと思ったこともあった。

 そして今日なお私の体のどこかにがん幹細胞が潜んでいて、子供のがん細胞を産みつけようと狙っているはずだが、まずは一段落といってよいかもしれない。

 岡本博士の本は、がんからの生還者を「がんサバイバー」と呼んで、薬をのむ代わりにセルフ治療に心がけるよう勧めている。それによれば、がん患者の中には「進行度が低いのに意外に悪くなっていく人、逆に進行度が高いのに良くなっていく人がいる。その違いは何か」という問題がある。

 この問題を何年もかけて検証した結果、よくなる人の共通点が見えてきた。それをまとめたのが「セルフ治療」で、「やるのとやらないのとでは、がん患者さんの寿命に大きな差がでることは明らか」だという。

 その内容は、まず「規則正しい生活が一番」。すなわち起きる時間を毎日一定にすることで、いつも同じリズムで生活してゆくことができる。

 第2に「ストレスをうまくかわす」こと。すなわち嫌な事は安請け合いをせず、最初から手を出さない。逆に「やりたいことは我慢しないで、やっておく」。「人はやりたいことをやっているときは、……リンパ球の数が増えてきます。免疫力、自己治癒力は、やりたいことをやると高まる」。

 要するに、年を取った今はマイペースを保ち「都合のいいことは聞くけれども、都合の悪いことは聞き流して、とぼけてしまう」のがいいらしい。

 第3に運動だが、「折りに触れ、関節をゆっくりと曲げ伸ばしする」ほか、歩いたり、腹式呼吸をする程度でよい。逆に筋トレやランニングなど、やり過ぎは良くない。 

 

 

 あとは食事の問題。「食べ過ぎない」「野菜を中心に食べる」「動物性たんぱく質を控える(魚介類は可)」「揚げ物を避ける」「ファーストフード、カップ麺、スナック菓子類を避ける」「清涼飲料水を避ける」「冷たいものは避ける」

 また牛乳はカゼインを含むが、これは強力な化学的発がん物質なので、飲まない方がよい。さらに肉も食べない方がいい。「牛乳や肉をふんだんにとりながら、癌が治る人は少ない」

 いっぽうで、われわれの健康を保つ栄養素を含む食物の一端として、赤ワイン、ぶどう、ブルーベリー、ブロッコリー、キャベツ、ほうれん草、トマト、赤ピーマン、とうがらし、鮭、いくら、きのこ、海藻、リンゴ、いか、たこ、魚介類、ショウガなどが挙げてある。

 赤ワインが真っ先にあるのが嬉しいではないか。

(西川 渉、2013.9.29)

【関連頁】
   <週刊朝日>悪魔の病(2013.9,22)
   <がんを読む>死刑宣告(2013.6.13)
   おい癌め(2012.10.18)

 

 


妖しくも毒々しい薬たち

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