<小言航兵衛>

ナマケモノ

 

 ナマケモノとは人間のことではなく、中南米の動物である。体長40〜80センチ。活動性に乏しく、四肢の先にある大きく強いつめで木の枝にぶらさがり、1本の木にしがみついたまま殆ど動かない。

 この珍獣を、私も高松の動物園で見たことがある。大きな檻の中に渡した平行棒に2頭がぶら下がっていて、寝ているのか起きているのか、じっとしがみついていた。その頭上にバナナの房が天井から吊り下がっていて、手を伸ばせばいつでも食べられそうだ。

 なるほどナマケモノとはよくも名づけたりと思ったが、野生の世界では夜になると若葉を食うために動き回り、縄張り争いや生存競争も激しいらしい。

 ところで小泉首相は今の第2次内閣ができた当座、「純ちゃんは人事の天才」などといわれたが、その所以となった肝心の若い2人――幹事長と国土交通相がはしゃぎ回って、墓穴を掘ったような恰好になってきた。いうまでもなく道路公団総裁の問題だが、なかなか辞めさせることができない。

 おまけに守秘義務の問題が出てきた。イニシアル政治家の本名を明かすことができるかどうかということらしいが、それじゃあ役人は泥棒を見ても黙っていなければならないのか。そもそも今回の問題は道路公団職員からの内部告発にはじまったはず。同じことが総裁になると何故できないのか。どうやらコソ泥ではなくて、大泥棒を見つけてしまい、あとの報復が怖いというのかもしれない。

 先日の聴聞会の結果も、いよいよ昨23日報告書が完成した。国交相によれば「先ほど受け取らせていただきました。これからじっくり読まさせていただきます」そうだが、どうしてこういちいち「させていただく」というのだろうか。

「先ほど受け取りました。これから熟読して判断します」といえば、きっぱりした口調で決心のほども感じられるのだが、「させていただく」では腰がひけたといわれるのもやむを得ない。奇妙な、卑屈な日本語が政界にはやるようになったものである。

 おまけに今度は、首相みずから元総理大臣に定年制を執行しようとして、すっかり怒らせてしまった。日本には無期懲役はあるが、「終身刑」はない。しかるに自民党にだけは定年制と並んで「終身制」もあったのだ。

 歳をとれば肉体的にも精神的にも衰えるのは自然の摂理である。一方で、20歳でもバカはバカだが、すぐれた人は百歳になってもすぐれているという議論がある。しかし、その判定はむずかしく、自然の摂理にさからってまで国政にたずさわって貰うほど、すぐれた政治家はいないのか。傲慢といわれ、人に後ろ指をさされても議席にしがみついていたいらしい。

 人を辞めさせるのは難しい。北海道のなんとかいう代議士も牢屋につながれながら議席にしがみついていた。ナマケモノは1本の木にしがみついて、その名とは反対に激しい闘争心を持っている。 上の連中も夜行性で、若葉ならぬ若者を食い、縄張り争いに明け暮れながら、権力の座にしがみつくナマケモノである。

(小言航兵衛、2003.10.24)

 

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