ここでいう新ビジネスとは次の3点である。
@ビジネス機のチャーター飛行
A空港でのFBO事業
Bフラクショナル・オーナーシップ事業
いずれも新しいとはいっても、欧米では珍しくなくなった。ただし日本では殆ど存在しないから、まだ新しいといえるのではないか。
このうちチャーター飛行はごく普通の航空事業である。運航会社がビジネス機を保有していて、これから1週間ロシア国内を旅行したり、東欧諸国を回ろうという人に、その期間だけビジネス・ジェットを提供し、チャーターしてもらうというもの。定期航空が飛んでいなかったり、便数が少ない不便なところを短時日で飛び回るには適するであろう。
2番目のFBO事業(フィックスドベース・オペレーション)も、決して新しいわけではないが、日本では余り見られない。発端は燃料会社や整備会社が、その空港に降りてきたビジネス機の燃料補給や整備作業をおこなうのは当然だが、ついでに本来の業務に加えて、いろいろなサービスをする。ちょっと電話を貸してもらいたいとかタクシーを呼んでくれといったことから始まって、パイロットの待機または休憩の場所やフライトプランをつくるためのデスクを貸して欲しいなどという要求も出てくるであろう。それが発展して、いまや大きなFBO事業が成立するに至った。その典型的な業務内容は表1に示す通りである。
たとえば、私の訪ねたFBO事業会社は、ダラス市内のラブフィールド空港に大きなターミナルビルを持ち、その背後に広大な格納庫を設けていた。表玄関から入って行くとしゃれたロビーがあって、これから自分の自家用ジェットで出かけようという人びとがゆったりと飛行準備の終わるのを待っていた。
奥のカウンターではいま着陸したビジネスマンたちが、受付の女性に何ごとかを依頼している。ダウンタンへ向かうレンタカーの手配、ホテルの予約、そして明日の出発時間までに燃料補給、機内の清掃、飲食物の準備などを頼んでいるのだろうか。
カウンターの奥にはパイロットの待機室があって、コンピューターの端末から最新の航空情報や気象情報を入手することができる。その横には休憩室、寝室、シャワールームなどが用意されている。
ロビー横の階段から2階に上がると、レストランや売店のほかに事務室や会議室があり、ここを借りて商談をすることもできる。つまりビジネス機で乗りこんできた事業家はここで契約交渉を進めることが可能であり、その間に階下ではパイロットが次の飛行準備をととのえるのである。
ある空港へ初めて飛来したビジネス機は、乗員も乗客もどこへ行っていいか分からない。特に外国から飛んできたときはまごつくであろう。そんなときFBOターミナルがあれば全てが片づく。入国手続きや税関検査まで手配してくれるのである。
このようなサービス業が、欧米の主要空港にはきちんとととのっている。ビジネス機に乗った人はどこへ行こうとも、さほどの不便を感じないで出入国ができる。NBAAショーでは、こうしたFBO企業も多数出展し、サービスの内容を競いながらビジネス機の誘致に懸命であった。
そこへいくと、日本の大空港は定期便以外は航空機とみなさない。そんな疑いをもちたくなるような扱いだから、世界的な大企業のトップが社用機で飛来しても、格納庫の横のせまい通路から身をかがめて出入りしなければならない。それよりも何よりも、スロットがないというので、大抵は着陸を拒否される。ビジネス機の利用者にとって、日本は最も不便な国というのが、世界中のトップ経営者の見方である。このことと日本の経済情勢とが無関係とはいえないであろう。
・専用ターミナルを保有し、乗降客を受け入れる |
第3の新ビジネス――フラクショナル・オーナーシップ事業は、ビジネス航空界において今、急成長をつづけている。この分割所有方式については昨年11月12日付けの本紙でご報告したので重複は避けたい。
基本的には1機のビジネス機を4社または8社で共有するもので、その世話をする運航管理会社に機体価格の4分の1または8分の1を払いこむ。あとは毎月の維持費を支払い、さらに使用の都度、燃料費や整備費などの変動費を払う仕組みである。これが、どのくらいの金額になるか、一例は表2に示す通りである。
○ |
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分割購入価格 |
1,370,000ドル |
2,740,000ドル |
月間固定費(維持管理費) |
12,875ドル/月 |
25,750ドル/月 |
時間あたり変動費 |
2,575ドル/時間 |
2,575ドル/時間 |
こうした分割所有方式の伸びは驚くほど大きい。機体の運航管理を引き受ける会社が増え、その発注機数が急増している。むしろビジネス航空界の好調ぶりは、分割所有によって支えられているといっていいかもしれない。
というのは、当然のことながら、一般企業がビジネス機を買う場合は、ふつう一度に1機である。同じ機材を2機以上同時に発注する例は、たとえば社内連絡便に使うような場合を除いては余り考えられない。
ところが分割所有のための運航管理会社が発注するのは、いっぺんに10機とか20機である。とりわけ最大手のエグゼクティブ・ジェット社の場合は、これまでも積極的な経営を進めてきたが、今年夏には世界有数の大金持ちウォーレン・バフェットをオーナーに迎え、NBAA大会の3日間だけで4機種83機のビジネス・ジェットを発注した。それに前月の2機種の発注分を加えると115機になり、さらに仮発注を足すと2か月間で200機以上の注文を出したことになる。ビジネス機のメーカーとしては、考えられなかったような大量発注で、各メーカーとも今世紀一杯の生産機がすべて売約ずみになってしまった。
このような分割所有は利用者にとって得か損か。減価償却期間などの条件によって異なるが、ある計算では飛行時間が年間350〜400時間以上になる場合は、完全所有の方が得ということになっている。逆に、年間50時間くらいしか使わないのであれば、その都度チャーターする方がいい。とすれば分割所有は年間100〜300時間くらいの使用者にとって得になるということであろう。
考えてみれば、実際にも、このくらいの利用者が多いかもしれない。これも昨年の本紙10月22日付でご紹介したことだが、アメリカでの調査によると、企業トップは3週間に2回くらいの割合でビジネス機を利用するらしい。1回に何時間使うかは不明だが、10時間とすれば年間350時間になる。実際はそんなに飛ばないだろう。せいぜい300時間くらいで、まさしく分割所有に適した範囲に入ってくる。フラクショナル事業が盛んになる理由も分かるような気がする。
わが国でも、ビジネス機が国際的に飛び交い、こうした新ビジネスが各地の空港で見られるようになってほしいものである。
(西川渉、『WING』紙、98年12月9日付掲載)
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