政治家と官僚の関係

――オスプレイの事故(2)――

 

 米海兵隊のV−22オスプレイの事故に対する『ニューヨーク・タイムス』の攻撃は執拗に続いている。4月14日付けの記事では「リスクの高いオスプレイへの疑問」と題する記事が掲載された。こういうところは、わが『朝日新聞』にも似て、最近の実例でいえば石原慎太郎知事の「三国人」発言を繰り返し攻撃するかの如くである。

 

 余談ながら「三国人」問題については、4月12日の夕方のニュースで朝日新聞配下のテレビ朝日が、マスコミに煽動された市民団体の騒ぎを報じていた。都庁の前に集まった40人ほどがマイクで「石原は辞任せよ」などと叫んでいる有様に加え、通行人や評論家や「文化人」(?)のインタビューでも石原はけしからん、すぐに辞任すべきだなどという話ばかりが出てくるから、そんなものかと思って聞いていたら、ニュースの最後にアナウンサーが平気な顔で「東京都庁には千件以上の電話がかかってきています。そのうち6割は知事の発言を支持するものでした」と言った。私は耳を疑って、それから吹き出しそうになった。それじゃあ、この反対論ばかりの放送はいったい何だったのか。

 テレビ局としては最後に支持率を出して中立を装ったのかもしれぬが、正直の上に馬鹿がついて、はからずも定見のない頓痴気ぶりを露呈してしまった。

 おまけに差別語なるものを問題にすることは、それ自体が差別をしていることになり、あっさりと聞き流した方がお互いに傷つかなくてすむはずだが、そんなことにも気がついていないらしい。

 もっといけないのは言葉遣いを問題にする余り、本来の問題を置き忘れてしまうことである。事実としてわが国では今、外国人による凶悪犯罪が頻発している。とりわけ不法滞在者や密入国者による犯罪は目に余るものがあるが、そのことを文化人か文化鍋か文化包丁の諸君はどう思っているのか。それは警察の問題だから、自分たちは預かり知らぬとでも言いたいのだろうが、そういうところから警察の堕落と犯罪の増加が起こるのである。文化市民といえども犯罪のない平安な生活こそが望ましいはずだが、知事が辞めれば犯罪が減るとでも思っているのかね。

 いずれにせよ、電話の6割が支持ということからすれば、市民団体の言動が宙に浮いていて、足が地に着いていないことを示すものであろう。

  話を『ニューヨーク・タイムス』のオスプレイ反対論に戻す。その口調は、たとえば次の通りである。

「V−22オスプレイはヘリコプターのように地面を離れ、飛行機のように飛ぶかの如く思われている。しかし先週末のアリゾナでの墜落事故は19人を殺し、政治的には人気があるが、技術的には神経過敏症のような航空機に関する疑問を、改めて惹起させることとなった」

「今後何十億ドルもの金を追加したり、何人もの命を危険にさらす前に、ウィリアム・コーエン国防長官は中立的な専門家から成る委員会をつくって、オスプレイが支持者の主張するように機械的に健全かどうか、軍事的に有効かどうかを検証すべきである」

「オスプレイは、なるほど理論的にはヘリコプターの2倍の兵員を搭載し、2倍の速さで、長距離を飛ぶことができる。しかし実際は技術的に手に負えないほど難かしく、したがって大変な金食い虫なのである。これまでも1機6,000万ドルで15機購入し、そのうち3機が墜落したではないか」

「事故調査の結果は間もなく出るだろうから、その原因がパイロットのエラーによるものか、機材上の故障によるものか、それとも設計上の欠陥があるのか、はっきりするであろう」

「議会の強力な支持は、議員たちの忠実なる選挙区になにがしかの仕事をもたらしただけであった。主契約者はペンシルバニアのボーイング社ヘリコプター事業部とテキサスのベル・ヘリコプター社だが、両社は二つの政党にソフトマネーを気前よく献金している企業である」

 

 重ねて断っておくと、私自身はティルトローター機の実用化に期待する一人である。したがって『ニューヨーク・タイムス』の主張に同調するものではない。その主張をここに取り上げたのは、彼らの言い分がどこか滑稽であるところから、漫文でも読むつもりで読んでもらいたいと思ったからである。

 なお、その漫文に出てくる「ソフトマネー」だが、大統領選や連邦議会選の選挙資金が「ハードマネー」と呼ばれ、選挙法などで収支や寄付の額などがきびしく規制されているのに対し、州レベルの選挙資金や政党活動のための規制外の資金が「ソフトマネー」と呼ばれる。しかし1980年代以降、「州の政党活動」などの名目で大企業や組合、裕福な個人から集められたソフトマネーが無制限に大統領選や連邦議会選の候補者を支援する政党のテレビ広告に流用されるようになった。

 良識派の議員らは、これまで何度か、ソフトマネーを大統領選などに流用するのを禁止する選挙資金改革法案を提案したが、実現にこぎつけることはできなかった。

 別の説明をインターネットで見ると、「ソフトマネー」とは連邦公職選挙法の規制対象外の資金であり、支出の上限もなく、誰がどの議員に出してもいいことになっている。このソフトマネーは本来、州や地方の選挙のための資金だが、ソフトマネーを集めることが大統領や政党幹部の重要な任務になっている。ソフトマネーは、主に政策広告のためのテレビ・コマーシャルに大量に使われていて、規制がない。

 つまり、米国では一般に、企業や労組の政治寄附は禁止されているといわれるが、これは「ハードマネー」――すなわち連邦選挙(議会、大統領)の運動費についてのみ言えることで、州レベルの政治資金や、選挙に用いられない政党の日常活動費などについてはその限りではない。これらの資金は一括して「ソフトマネー」と呼ばれ、日本語で「迂回資金」と訳されることもある。

 米国では近年、このソフトマネーの規模が著しく増大し、それを使ってテレビによる政策広告を大々的に行なっている。政策広告とは、特定の候補者や政党の「政策」をアピールする広告のことで、「誰それに投票して下さい」といった特定の文言を含んでいない限り選挙運動とは見なされない。そのため各政党はこうした政策広告を多用して、実質的には選挙に大きな影響を与えている。

 ティルトローターの記事を読んでいたら、石原発言を思い出し、アメリカ選挙資金法の勉強にまで及んでしまった。インターネットの面白いところである。

 それにしても、『ニューヨーク・タイムス』によれば「オスプレイは過去20年間、ペンタゴンの高官たちがレーガン政権のときもブッシュ政権のときも、またクリントン政権の初期にあっても、余りに高く余りにリスクが大きいというので製造に反対してきた」。

 にもかかわらず、議会はその開発を推進した。ということは政治家が官僚のとやかくいうのを押しのけて、自分の意志を通してきたわけで、このあたりは日本の政治家と官僚の関係とは全く逆である。あるいは、日本の場合は双方が癒着して身動きできない状態になっている。

 そういうところを見るだけでも、こうした新しい航空機の開発が日本ではとうてい望めないことが分かる。本来ならば、ティルトローターのようなVTOL機こそ、わが国の地勢に適した航空機のはずなのだが。

(西川渉、2000.4.15)

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