<ハドソン川事故>

空中衝突から奇妙な広がり

 ニューヨークの空中衝突事故に関し、米国管制官協会とNTSBとの間に非難の応酬がなされた。この事故は去る8月8日、パイパー・ランス軽飛行機と遊覧ヘリコプターがハドソン川上空で衝突、乗っていた9人が全員死亡したもの。

 これについて管制官協会は、NTSBがティータボロ空港の管制官に責任があるかのような発表をしたと主張する。すなわち軽飛行機のパイロットに、あらかじめハドソン川上空にヘリコプターが飛んでいることを助言できたはずといわんばかりの発表だったが、管制官協会としては承伏しがたいというのだ。

 しこれに対してNTSBは、管制官協会が記者会見でそのような言い分を語ったのは、事故に関する事実関係の公表はNTSBに限るとした協定に違反したと主張。管制官協会が技術的、専門的な助言を出してくれるのは有難いが、かたよった見解は望ましくないとしている。

 そのうえ、最近になって暴露された事実は、事故が起こったときティータボロ空港の管制官が電話をしていたこと、その相手がガールフレンドだったこと、電話の内容は死んだ猫の話だったということ。このとき、ティータボロの管制責任者も管制塔の外に出ていて、そこにはいなかった。

 また1ヵ月ほど前の7月5日には、1人で夜間宿直していた管制官が鍵を間違えて、管制室の外に出たまま中に入れなくなり、43分間にわたって閉め出されたという、お粗末なトラブルも起こしている。これらの事件は、必ずしも事故につながるわけではないが、FAAもNTSBもティータボロ空港の管制官の職務に対する意識について疑問を抱いている。

 ハドソン川上空の衝突事故は、人命や航空機の損失にとどまらず、奇妙な広がりを見せてきた。

 他方FAAは、かねて特別ワーキング・グループを編成して、ニューヨークのマンハッタン両側を流れるハドソン川とイーストリバー上空のVFR飛行経路の安全確保のための勧告を、8月末までに出すことにしていた。

 しかし今回の事故を受けて、取りあえず8月11日にはパイロット宛のノータムを出し、この経路を飛ぶときは着陸灯、衝突防止灯、航空灯を点灯し、周波数123.05MHzで不特定の宙空に向かって飛行高度や方位を自己申告で無線発信する。また飛行速度は140ノット以下とするよう指示している。

 以下、この空中衝突事故に巻き込まれたニューヨークのヘリコプター遊覧飛行に、2001年3月、筆者が乗ったときの写真数枚を見ていただきます。

 

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西30丁目ヘリポートを離陸。正面の小屋が待合室。右側の小屋が乗員控え室と部品庫。

 

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自由の女神を一周する。内部の垂直ならせん階段を上って、女神の冠にあたる展望台まで登ることもできる。ただし真っ暗な中を手すりを頼りに登るのは危なっかしくて非常に怖かった。まさに、菩薩のような女神も内面は夜叉である。

 

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ありし日のワールド・トレード・センター。同じ頃、この平和な光景をぶち壊さんとする陰謀が練られていたのである。

 

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イースト・リバーとウォール街ヘリポート。手前左はマンハッタン南端のバッテリーパーク。

 

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遊覧ヘリコプターから降りてくる人びと。腹に救命胴衣を巻いている。

 

 

【関連頁】

 ハドソン川上空の疑問(2009.8.20)
 ハドソン川上空で空中衝突(2009.8.15)
 ワールドトレード・センターの生涯(2002.10.1)

(西川 渉、2009.8.25) 

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