報復する国家権力 

 

 昨日のテレビがアフガニスタン復興支援会議にかかわるゴタゴタを報じていた。例によって、外務大臣と外務官僚たちとの軋轢で、世界中からやってきたお客さんを前に日本の大恥をさらしたあげく、NGOが会議への参加を外務省から拒否されてしまった。

 その理由が吐き気を催すようなことで、数日前の新聞でインタビューを受けたNGO代表が「お上の言うことは余り信用しない」とか「政府はかけ声ばかり」などと語ったためという。そんなことをいう奴は閉め出せというのが官僚たちだったが、その背後から差し金をしたのは北海道出身の某代議士であることがばれて、いっそう醜悪な実態が表面化した。

 その代議士が「政府を批判しているものが、なぜ政府主催の会議に出たいのか聞いて欲しい」としゃべっている場面もテレビで見たが、別に会議に出るのが目的じゃあるまい。アフガン支援のために必要があって出ようとしたのではないのか。

 そもそもNGOとは、文字通り非政府組織のはず。その会議になぜ役人が介入してくるのか。外務省にとってNGOは下請けという解説もあったが、本当は政府機関だけでは手の回らない細部の手伝い、もしくは危険で汚くてきついといった3K業務を代わってやって貰っているのではないのか。しかもボランティアによる無償の奉仕である。それも外務省のためにやっているのではなくて、アフガンのための行為なのだ。

 つまりNGO会議に参加していいかどうか決めるのは、外務省ではなくてNGOであり、参加を拒否されるのはNGOではなくて本来の職務も果たせない外務省ではないのか。どうも話が逆だし、外務省のやっていることこそ、あの代議士の下請けか手先のように見える。

 このような役所と民間人との関係で、もうひとつ目にとまったのは朝日新聞(1月18日)朝刊に掲載された「航空機管制の実態に不安」という投書である。昨年1月の日航機同士のニアミスに関する事故報告書案を読んだジャンボ機の機長が「管制サイドの組織的なずさんさに驚きと不安を隠せない」と書いている。

「これらの問題は最近突然発生したものではなく、何十年にもわたる航空行政の組織風土に起因したとみるべきだろう。最近ではFAAによる80か国以上の航空行政の実態検査でも、日本の航空行政の技術能力や体制の貧弱さが問題とされ」ているらしい。

 そうしたことをうかがわせる現象は、本頁でも取り上げた『墜落の背景』や『機長からアナウンス』などの本に書かれている。したがって航空関係者の間では強弱の違いはあっても、多くの人が感じていたことだろう。

 けれども、ここで強い衝撃を感じるのは、投書をしたジャンボ機の機長名が「匿名(東京都、57歳)」となっていることである。本名を出すと、後で行政上の報復を受けるおそれがあるからに違いない。

 『墜落の背景』でも、逆噴射事故を起こしたあとの日本航空で多数の機長が身体検査の不合格を言い渡され、病気でも何でもない身体にメスを入れる手術を受けなければならなかった事例が描かれている。NGOが会議出席を拒否されたのも同じく行政的な報復にほかならない。

 

 官僚や政治家は、自分たちの失策や汚職については「法律違反はしていない」と弁解する。けれども彼らには権力があるから、NGOや機長が法律違反をしていようがしてまいが、気に入らぬことがあれば容易に報復することができる。「行政指導」などは、非難が集中したために最近は余り言わなくなったが、法律に基づかない報復手段として使われることもあった。いわゆる「江戸長崎法」も,厄人のこうした報復を防ぐものである。

 NGOの代表はそのことを恐れずに発言して報復され、ジャンボ機機長は報復によって会社に迷惑がかかると思ったか身体検査で落とされると思ったか、匿名にせざるを得なかった。

 言論の自由とは名ばかりの日本は、いまだに国家権力が猛威をふるう国である。その仕返しを恐れる国民は黙るほかはない。本論も名前を出さないでおくことにしよう。

(匿名、2002.1.23)

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