きのう、9月11日午後7時のNHKテレビ・ニュースで「きょうは二百十日、台風の最も多い季節ですが、今年はまだ4個しか発生しておりません」というのを聞いて、私は首をかしげた。その後も繰り返し4個、4個としゃべっていたが、台風は1個、2個……と数えるものなんだろうか。
台風だから1台、2台……というのは無論冗談だが、1個、2個……というのはどこかおかしい。こうでなければならないという規則があるわけではないし、言葉の問題だから多分に感覚的でもあり、こうだといって決めつけられないから、それだけに難しいところもある。しかし1個、2個……はやっぱりヘンだ。
同じ自然災害に類するもので地震や洪水がある。しかし「きょうは伊豆半島に12個の群発地震がありました」とか「茨城県で那珂川の堤防が切れ、3個の洪水が発生しました」とは言わないであろう。
せめて1件、2件……というのならば理屈に合っているような気もするが、台風の場合は必ずしも被害が出るとは限らないから、1件、2件……というのは大げさに過ぎるかもしれない。普通の感覚では1回、2回……というのではないだろうか。二百十日のニュースならば「今年はまだ台風が4回しか発生していません」というわけである。
最近は何でもかんでも1個、2個と数える人が多くなった。いちいち助数詞を考えるのが面倒だからであろう。しかし1個、2個という数え方は、私の感覚ではてのひらにのせられる程度の小さな個体――たとえばビー玉やパチンコ玉やボタンのようなものを数えるときに使うような気がする。お釈迦さまではあるまいし、台風をてのひらにのせることはできない。
昔から兎は1羽、2羽……、箪笥は1(ひと)棹、2(ふた)棹……、イカは1杯、2杯……、提灯はひと張り、ふた張り……、豆腐は1丁、2丁……というように数え方が決まっている。そういう助数詞を無視して、みんな1個、2個……で片づけてしまうのは、いつぞやも本頁で書いたが、日本語の貧困化を助長するものであろう。NHKまでが、その片棒をかつぐことはあるまい。
そのうちにすっかり貧しくなって、人間も動物も鳥も虫もことごとく1個、2個……と物体のような数え方になるかもしれない。恐ろしいことである。
蛇足ながら、次のものはどのように数えるか。ここで再確認をしておきたい。
飛行機 |
囲碁 |
遺体 |
位牌 |
桶 |
折り詰め |
鏡 |
鏡餅 |
掛け軸 |
駕籠 |
神様 |
三味線 |
硯 |
前科 |
大砲 |
提灯 |
机 |
つづら |
テニスコート |
テント |
なぎなた |
猫 |
犯罪 |
パンチ |
舞 |
御輿 |
目薬 |
数え方がよく分からないときは1個、2個……ではなくて、一つ、二つ……のように助数詞をつけない方が良いのではないだろうか。
正解はここです。
(西川渉、98.9.12)
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