春らしい陽気


(春の海)

 

 だんだん暖かくなって、気持ちのいい日が多くなった。それはいいのだが、去る4月17日午後7時前のNHKラジオで天気予報士が「この2〜3日は肌寒い陽気が続いていましたが……」としゃべったのはいただけない。「陽気」という言葉は、それ自体が陽が照ってぽかぽかと暖かい天気を指すのではないのか。「春のような陽気」とはいうが、雨や曇天の寒い天候は初めから陽気とはいわぬはず。それとも「肌寒い妖気」とでも言うつもりだったのだろうか。

 このような表現は、日本語の乱れが嘆かわしいというばかりでなく、気象関係者が気象関連の表現を大事にしないという点で、プロとして失格である。四季に富んだ日本語には、気候に関しても昔から微妙な言い回しが豊富に存在する。そういうものを無視したり、誤用したりするようでは予報士の資格が疑われる。

 気象関連の職業を選び、しかも言葉による表現を天下の国営ラジオで全国に向かって放送するからには、言葉遣いにも注意を払ってもらいたい。

 

 その意味で先に本頁にも書いたが、台風を1個、2個と数えるのも、私には気に入らない。

 ところが昨年秋、北海道へ行ったときのこと、新千歳空港の売店で買った『文章を書くヒント』(外山滋比古著、PHP文庫、1997年11月18日発行)に次のような文章を見つけた。

 

 ことしは台風の当たり年だった。夏のうちから早々と発生し、九月になる前に十何号かになった。ところで、その台風をなんと数えるか。ひとつ、ふたつ、でよいと思っていた。ところがそのつどテレビで専門家がなんコと言う。はじめはずいぶんひっかかった。

 しかし、なれてしまえばなんでもない。このごろは自分でも台風は1コだと思うようになった。

 

 この本は1987年から90年にかけて中日新聞サンデー版に連載されたコラムをまとめたものである。本の形になったのはこの文庫版が最初らしいが、書かれたのは10年以上も前のことである。とすれば、台風を1個、2個と数えるのはもはや長年にわたっておこなわれているのかもしれない。やんぬるかな。そのことに私が気づいたのは昨年秋のことである。

 それにしても、同じ問題について、昔から愛読していた外山滋比古先生が同じようなことを書いているのに驚いた。ただし結論は逆で、この先生はおそらく温厚な方なのであろう、数え方の誤用を受け入れておられる。しかし小言航兵衛としてはそうはいかない。今も台風が1個、2個とはとんでもないと思うばかりである。

 最後に蛇足をつけ加えるならば、気象予報士が季節や気候に関する言葉の感性を養うために、その資格試験に俳句づくりを入れてはどうかと思う。ここに提案しておきたい。

(小言航兵衛、2000.4.20)

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