<エアバス対ボーイング>

A350の設計見直しか

 

 ボーイングの鼻息が荒いと書いたばかりのところへ、いっそう鼻息が荒くなりそうなニュースが入ってきた。787勝利のトランペットが鳴りわたる一方で、エアバスA350の受注が伸び悩み、ついに計画の見直しをすべきではないかという意見が出てきたのである。

 それによると昨年A350を12機発注した国際リース・ファイナンス社(ILFC)の会長が国際輸送機協会で講演し、エアバスはA350の今の設計をあきらめるべきだと発言したらしい。現用A330を基礎にするのをやめて、全く新しく設計をやり直したらどうかというのである。

 エアバス社の方はA330からの流用は極く一部しかないとしているが、ILFC会長はA350が787の最新の技術に対抗するためには、胴体も主翼も新しくやり直す必要があると主張する。

 そんなことをすれば、莫大な追加資金はもとより、開発時間もかかる。今ですら787よりも2年遅いという不利な立場にある。第一エアバスの現状は超巨人機A380の開発に人手を取られているため、A350の設計をやり直すような余裕はない。しかし10機を発注しているGEリース社もそれに同調し、7月のファーンボロ航空ショーまでには決断し、新たな方針を打ち出さなければA350の将来はむずかしいと語った。

 このA350の設計やり直し案は、エアバス社内にも賛同者がいるのではないかという見方もある。787や777と競い合うには今のままではむずかしいという意見で、現に昨年A340ファミリーがこれらのボーイング機に蚕食されているからだ。

 昨年の受注数は、全体ではエアバス社の方が多かったが、同クラスの長距離機では、777双発機が155機の注文を獲得したのに対し、A340四発機は15機しか受注できなかった。原油価格高騰の折から、燃料効率の良い双発機の方に凱歌が上がったのであろう。

 そこでエアバス社は、A340の改良に資金を投じるか、それとも同機の値段を下げるかという板ばさみの中で、取りあえず新しいA350の開発から得られた技術をA340に利用し改良できないかどうかの検討を始めたらしい。

 おまけにA380の受注も伸び悩んでいる。現状は159機の受注数だが、損益分岐点に対してはまだ100機足りない。そのうえ開発日程が遅れているため、開発経費が予定の117億ドル(約1.3兆円)を超えるのではないかという懸念も出てきた。

 しかしエアバス社の公式見解は、現状はたしかに苦しい立場にある。けれども今ここであわてて何かをすれば、いっそう窮地に立たされる恐れがある。大型旅客機の設計から開発、生産という長い目で見れば、たった1年くらいの動きで勝負が決まるわけではない、という。

 とすれば、この数日間の入り乱れるニュースは、7月のファーンボロ航空ショーに向けて激化が予想されるエアバス対ボーイングの前哨戦なのかもしれない。

(西川 渉、2006.3.31)


イエメン航空のA350想像図

【関連頁】

   ボーイングの鼻息(2006.3.30)
   787ストレッチ型の開発決断(2006.3.29)
   ストレッチ型787の開発へ(2006.1.11) 

 

(表紙へ戻る)