<本のしおり>

三たびアメリカの戦争犯罪

 『GHQ焚書図書開封』第9巻(西尾幹二、徳間書店、2014年3月刊)は「アメリカからの宣戦布告」という副題の下に、日米戦争はアメリカのあからさまな日本追い込みの結果であることを明らかにする。日米開戦の経緯は本頁「再びアメリカの戦争犯罪」(2015.10.6)でも触れたが、同じ趣旨を、ここでは戦時中の本によって見てゆくこととしたい。

 その前に「GHQ焚書図書」とは、昭和3年から終戦までに刊行された歴史書や評論書の中で、戦後占領軍が日本人の目に触れさせたくないとして選び出した本(7,769点)をいう。それらをGHQは全国の書店、古書店、官公庁、倉庫などから没収した。総数は38,000冊を超える。

 まさに秦の始皇帝の「焚書坑儒」だが、著者は、その封じられた本を掘り起こし、2008年から開封しつづけ、最近までに11巻が刊行されている。

 第9巻は『米英挑戦の真相』(大東亜戦争調査会編、毎日新聞社、昭和18年6月刊)を取り上げる。それを読むにあたって、『焚書開封』の著者は次のように書く。

「日本は相手の強いことを認識しないでむやみに戦争に突入した愚か者だ、といわれてきました。しかし大東亜戦争調査会編の一連の叢書をよんでいくと、じつはそうではなかったことがよくわかります。日本の弱さや、アメリカを中心とした“悪意ある世界”に取り巻かれていたことなどは、日本人によって全部見抜かれていました」

「それにもかかわらず戦争に入っていかざるをえなかった。ほかに術(すべ)がなく、まさに無理強いされるかたちで戦争に突入せざるをえなかった」のである。

「もうひとつの特徴は、ここに収められている文章が少しも興奮していないことです。厳密な分析で、いかに当時の知識人のレベルが高かったか、手に取るようにわかります」

 念のために『米英挑戦の真相』は昭和18年、開戦1年半後に出た本である。戦争の真っ最中だったが、その筆致はきわめて冷静で、『焚書開封』の著者は、そのことをくり返し書いている。

 『真相』の方は、その冒頭に「もはや奇蹟が生ずるのでなくては戦争不可避と見られるに至ったのは、同年(昭和16年)11月26日附の米国国務長官ハルから手交された通牒である」と書く。

 通牒の骨子は「(1)日独伊三国条約よりの実質的離脱、(2)支那並びに仏印よりの全面的撤兵、(3)南京政府の否認、(4)多辺的不可侵条約によるワシントン会議体制の再建」を日本に要求するもので「初めから我が国の受諾不可能なことが明瞭で」あった。

 このハル・ノートの前に「米国が我が国に対して行った全面的な経済断交は、明らかに我が国に対する戦争行為と目(もく)すべきもの」である。具体的には明治44年以来「30年の久しきに亘って両国の友好親善の関係を保持しきたった」日米通商条約が「何ら正当なる理由なく、米国政府によって突如として廃棄され、両国間の友好関係は一朝にして消滅に帰した」。

 この条約廃棄の理由はアメリカの1940年秋の大統領選挙であった。選挙の政敵が、ルーズベルトのニューディール政策を批判し、国庫負担が大きすぎるとして世論もそれに傾きつつあった。そこでルーズベルトは日本との経済関係を絶ち、国内産業の強化をはかって税負担を軽減し、人気の回復をめざしたのである。国外に敵をつくって国内の人気をつなぎ留めようという卑しいやり方は、今の韓国や中国も同様である。

 

 そのためのルーズベルトによる日本への経済圧迫は、具体的に「(1)事実上の輸出禁止、(2)通商条約の廃棄、(3)輸出許可制の採用、(4)日本船のパナマ運河通行禁止、(5)資産凍結令の実施」といったもので、まず兵器、弾薬、石油、屑鉄、非鉄金属、工作機械などの日本向け輸出を禁止しておいて、通商条約を廃棄したのだ。

 こうした経済圧迫はのちに東京裁判でも問題になり「経済制裁とか経済封鎖は宣戦布告と同じだ」という解釈がなされた。つまり、日米戦争はアメリカが先に仕掛けたのである。

 さらにアメリカは日本船のパナマ運河通行までも禁止する。そのため大西洋にいた日本船は南米大陸の最先端、ホーン岬を遠回りして太平洋に出なければならない。そのことを『真相』は「一口に南米廻りといへば何でもないやうであるが、水、燃料補給上の迫害下に、如何にして大切なる船を無事に日本の港に帰航せしめるかについての関係者の辛苦は、実に言語に絶するものがあった。世界の公道と認められてゐたパナマ運河を、理由なく日本船に限り、しかも何等の予告なく通航を禁止したことは、殆ど常識では判断できない。この一事を以てしても、米國の態度は明らかな挑戦だといふことが出来る」と書いている。

 その後も日本は在米資産の凍結などで追い詰められるが、その経済圧迫にもかかわらず外交交渉は引き続き継続されていた。しかし「日本としてこの圧迫を甘受することは、日本の戦力、経済力が日一日と低下することを意味するものであって、日本は否応なしに、屈服か、蹶起かの最後の断を強要されたのである」


アメリカには沢山の切り札があった

 こうして日本は一方的に追いこまれていく。そのもようを『米英挑戦の真相』は世界情勢をよく調べて、冷静な叙述で書いていく。そしてついに昭和16年12月8日、日本の堪忍袋の緒が切れて真珠湾攻撃となる。

 しかるに戦後、日本人の書いた歴史書の多くは『真相』の知的レベルに及ばない。占領軍の「GHQ史観」に毒されたままのおかしな本になっているからで、たとえば「半藤一利氏の『昭和史』、泰郁彦氏の歴史本も、北岡伸一氏の歴史観も、加藤陽子氏の近現代史も、みな、GHQが敷いたレールの上で書かれている。まったく語るに値しません」と『図書開封』は断定している。

 近年はさらに中国や韓国や朝日新聞の歪んだ歴史観が、日本のありもしない歴史を世界中に広めていることはいうまでもない。つい最近もユネスコで、中国の申請した「南京大虐殺文書」を世界記憶遺産へ登録することが決まったという。

 そんな荒唐無稽なエセ文書は絶対に取り消させるべきだが、それができなければ、日本は再び新たな紛争に向かって追いこまれてゆくことになるであろう。

(西川 渉、2015.10.12)

【関連頁】
   <本のしおり>再びアメリカの戦争犯罪(2015.10.6)
   <本のしおり>アメリカの戦争犯罪(2015.9.30)
   <小言航兵衛>跳べないノミ(2014.7.30)

    

 

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