<小言航兵衛>

日本メルトダウン

 ニューヨークは別として、アメリカの大都市にロンドン、パリなどに見られる地下鉄、市内電車のような公共交通機関が少ないのは、石油会社の陰謀だそうである。ロスアンジェルスに至っては、昔は市内電車が走っていたが、前世紀前半、無理矢理撤去してしまった。これで誰もが車を使わざるをえなくなり、ガソリンの需要が伸びて、石油会社の思惑通りとなった。

 同じような陰謀が日本の電力についてもおこなわれていて、9電力が地域独占権を持ち、工場や家庭の自家発電を陰に陽に阻んできたのではないのか。そうでないとすれば、風力発電や太陽光発電が長年にわたって話題になりながら、なぜ普及しないのか。設備費を下げ、電気の買取価格を上げれば普及するはずだが、そのあたりに何か電力会社の独占を維持するためのカラクリはないのか。

 企業、工場、病院、家庭が自家発電の設備を持てば、停電を恐れることはないし、これが普及すれば原子力発電も不要になるかもしれない。つまり、どこか1ヵ所でまとめて発電することを考えるから、大規模な発電所が必要になるし、それが駄目になれば全体が駄目になってしまうのである。

 こういう事態を防ごうという考え方が、電力ではないけれども、インターネットである。どこか1ヵ所の通信設備が駄目になっても、他の経路を使えば通信が途絶えることはない。しかも、世界中の個々人が相互につながることができるために、今やそれだけで中東諸国に見られるような独裁打倒の革命まで起こすことが可能となった。

 こうして通信の方は世界中がつながっているという時代に、日本の電力は東京と大阪の間ですら融通がきかない。周波数が違うというが、そんなものはいくらでも変換できるはず。やる気がないというよりも、わざわざ変換しないようにしているのであろう。いっぽうで電源開発という立派な企業もあるが、これまた日本を縦断する機能が抑えられ、本来の役割が発揮できないままでいる。

 つまりは、電力会社と官僚との陰謀があったわけで、それが原発事故によって表面化し、電力不足を招来したのである。

 そんなことを考えながら、本屋の中を歩いていたら「WiLL]という雑誌の「総力大特集、東北関東大震災」という表紙が目についた。買って帰って読んでみると大変おもしろい。おもしろいというのは311大震災によって、われわれの知らなかった為政者たちの無能ぶり、出鱈目ぶりが露わになったということである。

 いったい、こういう連中に国の政治をあずけておいていいものか。多くの人が早く取り戻さねばと思っていることは、4月10日の地方選挙の結果が示すとおりである。現政権は、大震災をいいことに居すわるつもりのようだが、本来ならば選挙大敗の民意を受けて引き退り、国の政治体制も改めなければならないはず。

 その失政のひとつが、この雑誌の2ヵ所で取り上げられているように、元アイドル・モデルの女代議士による「事業仕分け」で、「200年に1度の災害に備えるために多額の費用を出す必要があるのでしょうか」といって地震対策の高規格堤防(スーパー堤防)の予算を削り、さらに小中学校の耐震化、地震再保険特別会計、耐震補強工事費、災害対策予備費などの防災予算を大幅に削ってしまった。

 その結果、たとえば全国小中学校の5,000棟の耐震工事費は、当初計画の3分の1程度、1,000億円に削減された。天はそのあたりにも怒りを示したのである。

 ところが、その女代議士がなんと節電担当大臣に任命された。節電をするのに大臣が要るとも思えぬが、「ふざけた話だ」と怒るのは堤堯で、久保紘之との両ジャーナリストによる本誌の対談がはなはだおもしろい。

 さわりのところだけ引用すると「菅政権の危機管理のなさはどうだい。無能無策も極まれり。……地震、津波は天災だけど、福島原発を人災にしたのは菅直人だ」

「枝野が会見で述べたことが次から次に事実をもってひっくり返る。……2日目、1号機の建屋が吹っ飛び……会見をしたのは3時間後だ。なのに『なんらかの爆発事象があった。原子炉の事故かどうかは確認していない』『馬鹿野郎、早く確認しろ!』と画面に向けて怒鳴ったね」

 また事故や爆発をなんで「事象」などという妙な言葉に言い換えるのかとお怒りだが、これは航兵衛もあのテレビを見ていてそう思ったことである。

「要するに会見のたびに、情報を小出しに加工して伝えているんだ。『知らしむべからず、拠(よ)らしむべし』では大本営発表と同じだ……現状はこう、考え得る最悪の事態はこうと伝えることが大事なんだ。パニックが怖い? 冗談じゃない」

 つまり国民をバカにしているのである。誰が枝野の言葉でパニックなど起こすものか。それどころか政界、官僚、経営者たちに根本的に欠落しているのが緊張感にほかならない。

「菅や枝野は事態が刻々と深刻さを増しているのに『大丈夫、心配ない、安心していい』などと無責任極まる虚言を垂れ流す。そんなに安心なら、二人で原子炉に体を縛りつけてから言ってみろ」

 さて、この2人のジャーナリストは対談の中で、いくつか重要な提案をしている。ひとつは大震災の復興資金をどこからもってくるか。増税によってまかなうといった安直な愚案もあるようだが、子ども手当を回せばよい。子ども手当を民主党のマニフェスト通りに実行すれば年間5〜6兆円かかる。2年分で10兆円になるだろうから、それをやめれば災害復興の大半がまかなえる。

 次の提案は、今後も原発を続けようと思うならば、国会、政府、諸官庁を東京から切り離し、原発をつくった都市に部分的遷都をする。そこに国会議員、首相以下の閣僚、諸官庁のキャリア、電力会社の社長以下役員を、家族と共に住まわせる。これで原発反対の人も納得するであろう。

 もうひとつは地震予知の問題。国はこれまで毎年3,000億円の研究費を予知学者たちに与えてきた。しかし、予知などできぬことは311大震災でも証明された通りで「アメリカも以前は地震予知に力を入れてきた。けれども今では日本の予知研究をバカにしているそうですよ」

 このことは航兵衛も前に書いたが、地震予知事業はあの女代議士に依頼して早く仕分けをして貰うべきであろう。

 対談の締めくくりは「『最小不幸社会』などと言ってるから、最大不幸がきたんだよ。神の皮肉な笑いが聞こえる。……菅は日本のメルトダウンを加速させるだけだ」という結論になっている。

(小言航兵衛、2011.4.12)

【関連頁】
   <小言航兵衛>放射能下に生きる(2011.4.9)
   <小言航兵衛>原子炉注水(2011.3.19)
   <小言航兵衛>天罰(2011.3.17)

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