<ハリケーン>

人命救助が優先

 ヘリコプターは災害時のライフラインである。ライフラインの本来の意味は、水道、電気、ガスなど日常生活に必要な基礎的設備を言うが、それらが災害によって失われたとき、それに代わって被災者を助け、文字通りの生命維持装置となるのがヘリコプターにほかならない。

 日本の緊急機関は、警察、消防、国土交通省など、多数のヘリコプターを保有しながら、何故か人命救助よりも情報収集を優先し、テレビの生中継装置を搭載している。そのため救急も救助も消火もできないし、やる気もない。誰が言い出したか、これを「ヘリテレ」と称するようだが、実にイヤな言葉である。

 半年ほど前、アメリカの警察航空隊を訪ねて話を聞く機会があったが、彼らはテレビの生中継など考えたこともない。ヘリコプターで情報収集をするのは、暇なときはいいとして、緊急時には目の前の人を救い、火を消すのに忙しく、とてもそんなことはやっていられない。

 彼らのやり方は、情報収集のためには固定翼機を飛ばす。そして機上の無線を使って口頭で本部に状況報告をする。必要があれば、後刻の確認と記録のために手持ちのビデオカメラを回す。それに飛行機の方が速くて、行動範囲も広く、経済的でもある。

 逆に、飛行機は人命救助ができない。それができるのはヘリコプターだけである。その貴重なヘリコプターをカメラの撮影架台の代わりに使うなどは、災害対策本部に集められたお偉方の退屈しのぎにテレビの生中継を見せるだけのこと。テレビのせまい画面から何が分かるというのか。

 このことは阪神大震災以来、筆者の繰り返してきた主張だが、もう一度、今日の「救急の日」にあたって、警察、消防その他の緊急機関に所属するヘリコプターの全機から、高みの見物に過ぎないテレビ装置を取り外すよう、お願いしておきたい。


ニューオーリンズの被災地上空。
助けを求める人びとを探して飛び回るヘリコプター。
これも情報収集にほかならない。


捜索しながら被災者を見つけると救助にあたる。
つまり Search and Rescue という言葉が示すように
ヘリコプターは情報収集と救急救助を同時におこなうことができる。
このとき、情報収集のために重くてかさばるテレビ装置を積んでいては、
救助ができない。単なるSearch and Search になってしまい、
ヘリコプター本来の特性を殺しているのである。


米海軍のMH-53Eシードラゴン。救助に当りながら、
周囲の状況を無線で、口頭で本部に伝える。

 阪神大震災の対応のまずさに、日本は世界のわらいものになったが、アメリカもまた911同時多発テロで信用を失くした。今回のハリケーン災害は、911で失った不信感をいっそう拡大する結果を招いている。

 日本の災害対策は、愚かなヘリテレは別として、特に自衛隊を中心に阪神大震災の二の舞は演じたくないという学習意欲が旺盛で、新潟中越地震でも多少の問題はあったが、余り大きな非難を受けることなく、何とか人びとの期待に応えることができた。

 しかしアメリカでは、藪大統領の基本方針が根本から狂っているため、災害対策の予算や人手はテロ対策に取られ、イラク戦争に駆り出されて、国内はすっかり手薄になっていた。そこへ「カトリーナ」なる米国史上最大級の暴風雨が襲いかかり、これまた史上最大級の犠牲を払うこととなった。

 テレビに出てきた被災者の黒人女性が「あたしの名前もカトリーナよ」と泣きそうな顔をしていたが、内心は藪大統領に襲いかかりたいのではないか。

 このようなときに災害救助にきてくれるはずの地元ルイジアナとミシシッピの州兵も4割がイラクへ遠征していた。あわてて一部を国内に戻すようだが、征ったりきたりの兵隊さんも大変である。

 また最近イラクから戻ってきたルイジアナ州兵のUH-60ヘリコプターは、16機のうち半数がオーバホール中で使えない。しかし、残りの8機はすでに救助活動に入っている。ほかにオクラホマ、テキサス、フロリダなどの州兵のヘリコプターが飛んでいる。


ヘリコプターは被災者にとって、文字通りのライフライン。

 
赤ん坊をかかえて救助のヘリコプターに乗りこむ。


ヘリコプターで救助された被災者たち


犠牲になるのは所謂「災害弱者」――子どもと老人が多い。

 9月2日現在、ニューオーリンズ地域で救助活動にあたっていた国防省隷下のヘリコプターは113機であったという。うちおよそ半数が州兵所属、残りは海軍、陸軍、空軍の機体。

 州兵の50機余のヘリコプターは9月4日までに11,000人の被災者を救助し、安全な場所に搬送した。このうち2,000人は病人や負傷者であった。また大量の食糧、飲料水、物資を避難場所などに送りこんでいる。1日の飛行回数は全機合わせて約300件。これらのヘリコプターは全米各州から駆けつけたもの。

 米陸軍もUH-60ブラックホークとCH-47チヌーク合わせて30機余のヘリコプターを送りこんでいる。

 沿岸警備隊は36機のヘリコプターを投入している。このうちHH-60ジェイホークが15機、HH-65ドーファンが21機である。

 海軍からはMH-60Sシーナイツが3機、MH-53Eシードラゴンが2機、SH-3シーキングが2機。

 空軍のヘリコプターも2,000人以上の人を救助した。

 ヘリコプターメーカーのベル社はFEMA(連邦緊急事態管理局)の要請により、6機のヘリコプターを現地に送った。うちベル430と407の各1機は救急装備をしている。


 米陸軍のCH-47チヌークに乗りこむ救援の隊員たち。

【関連頁】

 ヘリコプター救助活動つづく(2005.9.6)

 再びヘリコプター救助活動(2005.9.4)

 史上最大の救助活動(2005.9.2)

(西川 渉、2005.9.9) 

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