<パリの空の下>

ボーイング体勢挽回へ

 

 米ワシントン州シアトルは近年、イチローの活躍するマリナーズの本拠地として知られるようになった。しかし航空ファンにとっては、昔からボーイングの本拠地としてなじみが深い。

 シアトルの人口は54万人。うち8万人(15%)が何らかの形でボーイング関連の仕事をしている。本社はシカゴに移転したが、依然として一種の企業城下町――ボーイング城下町であることに違いはない。したがって地元紙「ザ・シアトル・タイムズ」がイチローをひいきにしつつも、ボーイング社についてよく書くのも当然であろう。

 パリ航空ショーの開幕日、6月13日には「787の受注好調と、エアバスA350の正式開発着手の延期によって、超巨人機A380が飛んでは見せるものの、人びとの関心はエアバスからボーイングに移った」と書いている。

 そもそも今回のパリ航空ショーは、A380のデモ飛行とA350の開発発表が目玉になるはずだった。

 とりわけA380のデモ飛行は、他の航空機の存在を圧倒してしまうと見られていた。ところがショーの直前になって、急に悪いニュースが飛びこんできた。同機の開発日程が遅れ、量産機の引渡し開始が半年延期というのである。この調子でゆけば将来、受注数の伸びも怪しくなり、最終的にメーカーとしての採算も取れないのではないかと、とシアトル・タイムズは書く。

 そのうえA350の開発着手も9月まで延期になった。エアバス社はA350について、パリ航空ショーで100機以上の注文を発表するとしていた。ところが50機の注文を当てにしていたエミレーツ航空が今回のパリ航空ショーでは新しい発注はしないと発表したのだ。同航空の注文を巡っては、787とA350との間で激しい受注競争が続いている。

 A350は昨年12月から受注活動がはじまり、まずエアヨーロッパが12機を発注した。またUSエアウェイズとアメリカ・ウェスト航空が合併する新会社も、エアバス社からの財務支援と交換に20機程度のA350を発注すると伝えられる。

 もうひとつは国際リース会社ILFCからの注文。同社は現在30機のA330を発注しているが、これをA350に転換する可能性もあるという。さらにカタール航空からも60機の注文が期待されているが、果たして一挙に100機を超える受注発表ができるかどうか。


パリに到着したA380――このときまでの飛行時間はすでに100時間以上。

 対するボーイング787は、受注数が急速に増え続け、今や266機に達したもよう。設計仕様も数週間以内に固められ、いよいよ本格的な細部設計に入る。部品の一部は実際の製造に入ったものもあるという。

 またコクピットと機首の部分は、民間機としては画期的な技術により一体製造になる。また胴体や主翼には複合材が大量に使われ、機体重量の大幅削減を実現する。最終的な機体重量は、従来のようなアルミ合金製にくらべて13%減で、空虚重量は216,000ポンドが目標値になっている。これで重量が軽くなれば、燃料効率が上がり、飛行性能も向上する。

 大きさは、A350の方が787よりやや大きい。したがって乗客1人当たりのコストが有利で、1席当たりの燃料消費も4%少ないというのがエアバスの言い分。これに対してボーイング社は、787の主翼はA350よりも大きく、しかも軽い。それでいて同じエンジンを使うとなれば、全体としての運航効率は787の方が良くなるという。 

 かくてボーイングはパリ航空ショーで一気に体勢を挽回する戦略を進めつつある。そのため3月に初飛行したばかりの長距離機777-200LRを持ち込み、さらにイタリア空軍向けの767空中給油機を展示する。

 また新しい747発達型の計画を発表するかもしれない。同機は787と同じエンジンを使い、2階デッキをファーストクラス用の豪華な「スカイスイート」キャビンにするという。この発達型に最も強い関心を見せているのは台湾の中華航空。正式の開発着手は今年夏の終わり頃とされている。 

(西川 渉、2005.6.14)

【関連頁】

   切り結ぶ両雄(2005.6.10) 
   エアバスA350に初の注文(2004.12.23) 
   エアバスA350の開発決定(2004.12.14) 

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