オスプレイからコマンチへ

 

 オスプレイの事故については、本頁でもいろいろ書いてきた関係上、何らかの決着をつけておかねばなるまい。5月25日のニュース速報によれば、どうやらV−22の飛行再開が決まったようで、4月8日の事故以来出ていた飛行停止命令が解除されるという。

 1か月半にわたる飛行停止だったから、まずパイロットの慣熟訓練からはじまる。次いで通常飛行に戻って、従来から進められてきた実用評価試験に入るというのである。その際、ティルトローター機の安全性を示すため、同乗者をのせる最初の飛行には海兵隊と空軍の最高司令官が乗りこむことになっている。

 私としては、こうした米軍の動きには何の関係もないが、近い将来、民間機としてのティルトローター機の実現を願うものとして、一連の計画が順調に進むことを希望している。先ずはご同慶の至りと言っていいだろう。

 ところでオスプレイの事故にかまけているうちに、その少し前、コマンチの開発計画が大きく前進したらしい。というのは4月初め、米陸軍が新しい「陸軍航空計画」を議会に提出、その中で将来の陸軍航空の中心にコマンチを据えると言明したのである。

 以来2か月ほどたち、このことはヘリコプター関係者の多くが知っているようで、ニュースとしては旧くなったが、以下は自分自身のためのメモである。

 ボーイング/シコルスキーRAH-66コマンチ武装偵察ヘリコプターは、つい先頃まで調達機数を625機に削減するとか、計画中止とか、将来が危ないなどといわれてきた。そうなるとシコルスキー社の存在すら危なくなると予測する人もいた。

 それが一転して、国防省は4月4日31億ドルの予算支出を決めた。これでコマンチ計画は技術製造開発(EMD)段階に入り、13機を試作する。試作機のうち5機は、現在飛行中の2機の原型機とともに機体の技術面の試験に使われ、残り8機は陸軍が運用評価試験に使う。そして2004年から量産に着手、2006年には最初のコマンチ部隊が編成され、最終的には2024年までに340億ドルで1,213機を調達することになったというのである。

 その一方、現用AH-1、UH-1、OH-58A/Cなどが徐々に引退してゆく。最後のOH-58Dがいなくなるのは2013年とか。これで米陸軍のヘリコプターは最終的にCHー47チヌーク、UH-60ブラックホーク、AH-64アパッチ、そしてRAH-66コマンチの4機種に絞られる。

 その中で、コマンチは敵に見つかりにくい偵察機として情報収集にあたり、必要あれば地上部隊を支援する攻撃機としても使われる。

 またチヌークは今のところ2020年まで使用する。その後は「フューチャー・トランスポート・ロータークラフト」(FTR)が将来の戦術輸送機として登場するようだが、機種や開発計画は未定。一案としてV−22ティルトローター機も候補に上がっているらしい。けれども金がかかりすぎるのでチヌークを改修し、近代化して使う方がいいのではないかという意見もある。

 もうひとつ、現用743機のAH-64Dアパッチは、2007年までに227機がロングボウ・レーダーを装備、対地攻撃の精度を上げる。アパッチは2020年頃には600機くらいに減っているだろうから、その後継機をどうするかという問題が出てくる。新しい機種を開発するか、アパッチを再生産するか、コマンチの発達型をつくるかなどの意見があるらしい。

 こういう話を聞くと何だか景気が良さそうだが、アメリカ陸軍のヘリコプター調達予算は、1990年以来6割も減って、いまや10年前の4割という水準だそうである。台所事情の苦しい中で、如何にしてやりくりしていくか、いかにして費用効果を高めてゆくかが大きな課題となっている。

(西川渉、2000.6.1)

 (「本頁篇」へ表紙へ戻る