ヘリコプターは

銀座通りにも着陸できる

 

 

 去る11月2日、第7回日本航空医療学会で一般演題として講演した要旨。前刷り集に掲載されたものに加筆した。 

 

 ヘリコプターは最良の緊急手段である。そのためにはどこにでも着陸し、事態に対処できなければならない。航空法はそのことを想定して、第81条の2に飛行場外での離着陸を禁止する条項(法第79条)の特例を定めている。周知のように運輸省、防衛庁、警察庁、都道府県警察又は地方公共団体の消防機関が「捜索又は救助のために行う航行については、適用しない」という規定である。

 それが今年2月、航空法施行規則第176条の改正によって、これらの「機関の依頼又は通報により捜索又は救助を行う航空機」も対象となり、救急業務に従事するヘリコプターが民間事業会社のものであってもその一つとみなされ、必要に応じてどこにでも着陸してよいこととなった。

 しかし今のところ、ドクターヘリが3か所で試行的に運航されているが、この新しい規定を実行に移した例は余り聞かない。従来通り、あらかじめ設定した臨時ヘリポートに着陸し、患者はそこまで救急車で運ばれてくるという方式がおこなわれている。もとより、実行に当たっては安全の確保が最重要の前提条件である。決して機長の蛮勇を求めるものではない。が、法律改正から半年あまりを経て、せっかくの新しい規定をそろそろ実行に移す時期になったのではないだろうか。

 

 一口に安全の確保と言っても、実際には難しい。しかし、難しいからといって諦めていたのでは進歩がない。ましてや救急任務の場合、助かる命が失われることにもなろう。その実行のためには、まず機長が経験を積んで冷静的確な判断力を身につける必要がある。上空から地上の空き地を見て、安全に接地できるかどうかをとっさに判断できるようでなければならない。

 問題は機長ばかりではない。医師や救急救命士などの同乗者も周辺および後方の状況監視に当たり、危険を感じたときは機長に伝えるような訓練をする必要がある。さらに地上では、現場に先行した救急隊員や警察官が交通規制をしたり、ヘリコプターに合図を送るなどの協力が必要となる。とりわけ高速道路の事故に際しては、あらかじめ着陸場所を設定しておくことはできないから、関係機関の総合的な協力がなければならない。そのためにはヘリコプターとの間で無線連絡ができるような仕組みも必要になろう。

 こうした対応は、欧米のヘリコプター救急先進国では、すでに実行されていることである。日本でも同じような態勢が整えば、技術的には銀座通りにも着陸できる。ロンドンの場合は6年間に6,549回の出動をして現場着陸ができなかったのは14回のみ。しかも接地点と患者との距離はきわめて近く、全体の4割が患者から50m以内、6割が100m以内、3分の2が200m以内であった。

 ロンドンHEMSの機長によれば、ローター直径の2倍の広さがあれば、トラファルガー広場の高さ60mのネルソン提督の塔の下でも、ピカデリーサーカスの雑踏の中でも、ウェストミンスター寺院の前庭でも、英国議会ビッグベンの前でも、どこにでも着陸できるとしている。

(西川渉、第7回日本航空医療学会プログラム・抄録集掲載、平成12年11月2日)

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