<小言航兵衛>

核戦争が始まった

 災害は戦争である。大災害は大戦争である。敵弾こそ飛んではこないが、放射能が飛びはじめた。これぞ「核戦争」にほかならない。日本は今、大きな危険にさらされているのだ。

 しかるに、その戦争に臨む最高司令官たちの資質、能力、戦略はいったい如何なるものか。まったく情けない為体(ていたらく)であることは、今や日本国民の誰もが知るところとなった。これでは核戦争に勝てるわけもなく、日本という国は滅びるほかはあるまい。

 滅びの覚悟を決める前に、せめてわが最高戦争指導者たちの実態を見ておくことにしよう。具体的なことを教えてくれるのは「文藝春秋」5月号である。

 まず菅直人は、この戦争におけるA級戦犯だそうである。早くも負け戦さと見たのか、あわてて東電本社に怒鳴りこんだらしい。有事の際の指揮命令系統がしっかりできていれば、そんなことをせずとも、首相は最終判断に集中すればよかったはずだが、そのうろたえぶりはこれだけではなかった。

 都知事のところに直接電話をしてきて、東京消防庁に出動指示を出して貰いたいというのだが、そのときはとっくに出動していた。首相だけが知らなかったのは組織系統が機能してなく、必要な情報が官邸に上がっていないからだった。

 にもかかわらず、首相みずから陣頭指揮を執ろうとする。というよりも動転した素人が口出しをするものだから、注水作業がはじまってからもしばしば停滞せざるを得なかった。現場のことは現場にまかせて、首相は関係省庁を束ねつつ大方針を示すべきだった。つまり戦争の仕方を全く知らず、周りの参謀たちも無能者ぞろいか、見て見ぬふりをしているのか、首相ひとりが宙に浮いたまま無駄に右往左往するだけといったありさまなのである。

 もうひとりお粗末なのが、いつのまにか経産大臣の椅子に坐った男で、原発冷却水の放水作業にあたって、原子炉の周囲ががれきの山で近づけない。そのため現地に派遣された消防や自衛隊が大量の放射線を浴びながら、がれきを片付けたり、長いホースをつないだりしているところへ、「遅い! 早くしろ」「いつ始めるんだ!」「消防は下がれ! 代わりに自衛隊がやれ」などの口汚い命令を出してくる。いったい経産相が防衛相や総務相の隷下にある部隊に直接命令を出せるのか。

 あげくの果ては「モタモタしていると処分するぞ」などと、あり得べからざる罵声を浴びせてきたらしい。人間、自分の能力を超えた地位についてはならないという教訓の典型的な例といえよう。

 一方で官房長官は「役所以上に役所的体質」といわれる電力会社からの楽観論を、連日発信しつづけた。このような事故の過小評価は、あとになって事態が暗転する結果となり、「会見クライシス」を招いてしまった。

 同時にアメリカ政府からの協力申し出を断ったため、原発事故について何か重要な事実を隠しているのではないかという疑いをアメリカに抱かせた。これが大きな判断ミスであるというのは、少なくとも原発事故の処理に関して日本を孤立させることになってしまった。戦争における判断ミスは味方の命取りになる。

 さらに節電担当大臣になった女代議士は都知事のところへやってきて「節電をお願いします」と言ったらしい。その調子であちこちの知事にお願いして回れば節電になるとでも思っているのか。そんな無駄なことをする前に強制力を持った政令を大臣の責任で出せばいいではないかといわれてポカンとしていたとか。政策実行のための方法も知らなかったのだ。

 おまけに事業仕分けで「スーパー堤防」の予算を削った一件を指摘され、「あれは官僚の出してきた数字がいい加減で……」と、つい本音を口走った。つまり事業仕分けというのは、官僚の書いたシナリオに従って、政治家がサル芝居を演じているだけのことだったのである。これを聞いて「バカ大臣をいくら増やしてもバカが増えるだけ」と喝破したのは国民新党の亀井代表であった。

 かくて、日本の中枢はどうにもならない無知無能の痴愚神どもが占拠するところとなり、国家体制が崩壊し、組織も制度も秩序もなくなってしまった。つまり、ろくな作戦も立てられぬまま敗けてしまったようなもので、こんな危なっかしい敗戦国に住んではいられないというので、日本在住の外国人は続々と脱出していった。

 今や世界中が、統治能力(ガヴァナンス)のない日本政府への信頼を持てなくなっている。航兵衛もまた絶望の余り、かかる三流国に向かって小言をいう気力もなくなった。

(小言航兵衛、2011.4.16)

【関連頁】
   <小言航兵衛>日本メルトダウン(2011.4.12)
   <小言航兵衛>放射能下に生きる(2011.4.9)
   <小言航兵衛>原子炉注水(2011.3.19)
   <小言航兵衛>天罰(2011.3.17)

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