<パリの空の下>

エアバスA380とA350

 

「2階建ての超巨人旅客機A380は、パリ航空ショーの初日、堂々たる飛行ぶりを披露した。会場の人びとは息を呑んだまま、ただ黙って上空を見つめるばかりだった……」

 当日の新聞は、A380が初めてルブールジェで飛んだときのもようを、そう伝えている。同機はショー開幕の前日、22回目の飛行でルブールジェに到着した。飛行時間は、すでに100時間を超えたところである。

 デモ飛行は離陸重量705,000ポンドでおこなわれた。降着装置は最後まで出したままで、観衆の目の前を低く通過すると、背中を見せて急旋回した。

 ショーの初日は、まずシラク大統領を迎えた開会式で飛行して見せ、午後からの飛行プログラムでも飛んだ。2日目以降は最終日まで、毎日午後、1回ずつ飛ぶ予定。したがって、パリまでの往復と会期中の飛行を合わせると全部で10回飛ぶことになる。

 これまでは、初飛行から1カ月半の間に21回の飛行であったから、A380の飛行回数はこの1週間余りで5割増しということになる。ただし飛行時間は、さほど増えるわけではない。

 A380の速度は、最大マッハ0.89、最大運用速度340ノットで設計されているが、これまでの試験飛行中に375ノットのダイブ速度を達成した。また試験飛行時の総重量は常に最大離陸重量122万ポンド、最大着陸重量112万ポンドでおこなわれている。したがって航空ショーでの70万ポンド余という重量は相当軽いことになる。これらデモ飛行中のデータも、ツールーズの試験飛行センターではテレメトリーで受信し、解析を続けている。

 もうひとつの話題A350は、「ニューヨーク・タイムズ」によると、カタール航空が6月13日、パリ航空ショーの会場で、エアバスA350を60機発注するつもりと語ったという。とすれば、これで同機は、ほぼ確実に正式の開発着手へ進むことになろう。

 カタール航空はA350と同時に、ボーイング777についても20機を発注するらしい。同航空は従来エアバス機だけを使ってきたので、ボーイング機を導入するのは初めてである。

 これらの受注見こみを加えると、A350の受注数は合わせて90機になる。内訳はスペインのエアヨーロッパから10機、新USエアウェイズから20機、そしてカタールから60機である。エアバス社は、ショーの終わりまでには100機を超えると強気の見こみを語っている。

 A350の開発着手は、ショーの直前、9月末まで延期された。それまでにはエミレーツ航空からも50機の注文を得られるものと、エアバス社は期待している。

 A350の開発には、43.5億ユーロ(約5,800億円)の費用を要する。エアバス社は、そのうち3分の1の資金援助を関係4カ国の政府――フランス、ドイツ、イギリス、スペイン――に要請している。これに対してアメリカ側は世界貿易機関(WTO)に提訴し、欧州側も反訴の構えだが、そうした状況がA350の開発遅延にも影響しているらしい。

 もっとも、エアバス首脳はパリ航空ショーの会場で、いざとなれば政府の支援がなくとも開発に踏み切ると、強気の姿勢を見せた。

(西川 渉、2005.6.15)

【関連頁】

   ボーイング体勢挽回へ(2005.6.14) 
   切り結ぶ両雄(2005.6.10) 
   エアバスA350に初の注文(2004.12.23) 
   エアバスA350の開発決定(2004.12.14) 

(表紙へ戻る)