夢ふくらむ音速旅客機構想

 アメリカの多発テロから3か月、世界の航空界の不調が伝えられ、ボーイング社も3万人の解雇を発表してはいるが、高速旅客機ソニック・クルーザーの開発意欲は減退しないかに見える。最近は、これを超音速にしてはどうかという意見も出てきた。

 ボーイング社が今年春に公表したソニック・クルーザーは最大速度マッハ0.98で、現用旅客機の10〜15%増という巡航飛行性能をもつ。しかし乗客にとって、この程度の時間短縮では余り大きな魅力はないというので、主要エアラインからは旅行時間をもっと大幅に短縮できるような機材が欲しいという要望が出ていた。

 そこで最近伝えられるのは思い切って音速を超え、マッハ1.8、1,930km/hほどの超音速構想である。しかもコンコルドよりも遙かに安い費用で運航できるという。

 ソニック・クルーザーは、これまでの風洞試験の結果、機首前方の小翼と外側に傾いた2枚の垂直尾翼によって、音速に近づいてもバフェッティングは生じないことが確認された。さらに主翼のダブルデルタによってソニック・ブームが抑えられるはずで、目下こまかい形状の調整がおこなわれている。これに成功すれば、超音速でも陸地上空を飛行できるようになり、将来の超音速機にとって大きな突破口となる。

 またソニック・クルーザーの航続距離は9,650〜14,500km。燃料効率は現用ジェット旅客機のどの機種よりも高くなるという。

 これらの開発研究のために、現在ボーイング・シアトル工場では数百人の技術者が作業を進めている。来年なかばには、準備作業を完成させ、本格的な開発作業に向かう予定という。

 ソニック・クルーザーは2008年の就航をめざし、これまでにエアライン12社が導入の以降を表明している。

 ボーイング社のこうした構想に対して、技術的な課題もさることながら、経済的にも問題が大きいとして、実現を危ぶむ声もある。しかしボーイング社の強気は、航空界の不況のまっただ中にあって、欧州エアバスA380の進捗状況を横目で見ながら、超音速機の開発計画にまで進むかに見える。

(西川渉、2001.12.12)

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