<VH-71>

米大統領ヘリコプターも開発中止

 米海軍の去る6月1日の発表によれば、試験飛行が進んでいた米大統領専用機、VH-71Aヘリコプターの計画が中止になった。開発作業に手間どり、当初予算のおよそ60億ドルが2倍以上の130億ドル(約1.3兆円)にふくれあがったためという。

 もっとも、予算の膨張はメーカー側のせいばかりでなく、同機に対する政府の要求仕様が増えたため。海軍も契約者が悪いわけではなく、政府の利便性を求め過ぎたためと語っている。

 

 ロッキード・マーチン社が欧州アグスタウェストランド社と組んで、アメリカ大統領専用機の開発と製造に関する契約を獲得したのは2005年1月であった。欧州製EH101を基本とするもので、大統領機としてはVH-71Aと名づけられ、開発作業が進んだ。

 最終的には28機が製造され、40年間使われてきたシコルスキー機に替わるはずだった。しかし新製機ができないとすれば、少なくとも今後10年間くらいは現用機を使うことになる。

 そのため計画の中止と現用機の延命に必要な経費は、およそ12億ドル(約1,200億円)というのが国防省の腹づもり。一方で、議員の中には計画中止の経費が5,5億ドル(約550億円)、現用機の飛行継続費が44億ドル(約4,400億円)と計算する人もある。

 VH-71の計画中止に伴い、ロッキード・マーチン社は賠償金を受け取ると同時に、従業員を解雇することになる。当面は130人が解雇される予定だが、将来さらに増えるもよう。

 実際にVH-71計画のために、どのくらいの人が働いていたかは不明だが、計画のはじまった当初は750人程度の新たな職場が生まれるというのがロッキード社の見方であった。 

 この計画中止に先立って、イタリア国防相は米国政府に対しVH-71計画の続行を要請していた。当然のことながら、VH-71の基本的な機体構造はイタリアとイギリスで製造されることから、影響は両国にも及ぶ。したがって計画続行のためには、イタリア政府としても何らかの支援をする用意があるという提案だったが、それもむなしく終わった。

 イタリアからは、すでに9機のEH-101がアメリカへ引渡されている。うち4機は試験飛行用で、これまでにかなりの時間を飛んでいた。しかし去る5月15日、アメリカ国防省はVH-71に関するいっさいの仕事を中止するよう指示していた。

 

 オバマが何を考えているのか、軍事予算について大なたをふるい始めた。昨日ご紹介した次期捜索救難機の計画中止と共に、まずはヘリコプター2機種を血祭りに挙げ、いずれは戦闘機にも及ぶもよう。

 ひとり喜んでいるのは中国にちがいない。


試験飛行中のVH-71原型機

[関連頁]

   次期捜索救難機の計画中止(2009.6.4)

   米大統領ヘリコプターも交替(2009.1.13)

   米2機の試験飛行つづく(2008.7.30)

   迷走する米大統領機(2008.2.17)

(西川 渉、2009.6.5)

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