<エアバス対ボーイング>

アイディアはアメリカ製

 

 ボーイング社は改めて、目下開発中の787旅客機がアメリカ製であると同時に、グローバル製品でもあると強調している。なぜなら「アイディアはアメリカ製、製造は世界製」だからだそうである。アイディアを生み出し、設計し、航空機として作り上げてゆくのがアメリカであり、実際の製造に当たるのが世界中のメーカー各社だというのだ。

 世界中を下請けに使って、その上に君臨するのがボーイングというわけで、787を実現させた9割は社内の設計力と技術力によるものとする。787の3分の1を下請けして、下請け代表のように引用される日本は、それでいいのか。なんだか情けない気がするが、ここで議論に深入りする暇はない。

 深入りしたい方は、余談ながら『戦闘機屋人生』(前間孝則、講談社、2005年11月29日)をご覧になるといい。この本には東京帝大航空学科を出て海軍の航空技術士官として零戦を手がけ、戦後は防衛庁の技術幹部あるいは技術開発官として歩んだ高山捷一空将の半生を通して、日本の航空工業の実態が詳しく描かれ、論じられている。

 ボーイングの話に戻ると、客観的には787の製造コストの65%が外部の作業だそうである。したがって社内の従業員からすれば、外部へ出しすぎるという不満もある。事実、ボーイング民間機部門の従業員は、2001年の911多発テロの時点で約93,000人だったが、今年2月末には50,000人に減少している。

 経営陣からすれば、これは911テロの後の不況のせいであり、もうひつは製造工程の効率化の結果である。たとえば旅客機1機の組立て日数は、1999年の時点で22日かかっていたが、今では11日と半減し、目下8日間で仕上げる目標をめざしているらしい。

 さらに従業員の数は、最大の効率を上げるために、内部作業と外部作業の戦略的なバランスを考えた結果でもあると説明している。しかし従業員からすれば、人を減らして企業が繁栄しても、決して喜ばしいことではないと受け止める。

 こうして、エアバスとの競争激化により、いっそうの効率化をめざすボーイングの行き方は、いささかの問題を内部にかかえている。

 さて、ボーイングは4月11日、中国から大量80機の737を受注した。金額にして46億ドル(約5,300億円)。中国は昨年11月70機を正式発注し、80機を仮発注にしていたが、それを正式発注としたものである。

 これで昨年12月150機のエアバスA320を発注したことと釣り合い、ボーイング社がエアバスに対して一歩遅れを取ったように見えていた中国市場での体勢が、双方互角に並ぶことになる。というよりも、世界の2大航空機メーカーをあやつる中国のしたたかな戦略というべきだろう。実際、中国はアメリカとの貿易収支が大きな黒字になっており、何か買ってもらいたいという圧力を受けていた。

 しかしボーイングは、エアバスと異なり、中国に組立て工場を建設する考えはない。従来通り、部品の製造を出すことにしている。たしかにボーイング機の部品は中国で大量に製造されており、両者の関係は深い。これから787の方向舵も中国製になる予定だ。中国側はこうしたことで国民の仕事を増やしてゆくことができると同時に、最先端の航空技術も手に入れることとなる。

 ただしボーイングは中国へ部品製造を依頼することと、注文を取ることとは別問題としている。中国に部品の製造を発注するのは安くて良い製品ができるからだと。

 ボーイング社の今年第1四半期(1〜3月)の引渡し数は98機となった。昨年同期の70機に対して4割増しである。このうち最も多いのは737で、72機を引渡した。昨年同期は54機であった。ほかに777が17機、最後の717が2機、747が4機、767が3機である。

 また軍用機はAH-64Dアパッチ攻撃ヘリコプターが9機、C-17輸送機が4機、T-45TS訓練機が4機、F/A-18E/F戦闘機が10機となっている。


F/A-18E/Fスーパーホーネット

 歴史的に見ると、1972年ニクソン大統領が中国を訪問した際、ボーイングも同行して707旅客機10機の注文を獲得した。以来中国市場ではボーイング機が優勢を保ち、今なお63%のシェアを抑えている。

 一方エアバス社は1994年、中国に事務所を開いて販売活動を続けてきた。エアバス機は1995年の当時、中国では29機しか飛んでいなかった。しかし現在、中国のエアバス機は200機を超える。

 そして昨年12月、150機の注文を受けると同時に、組立て工場を中国に設置したいという計画を明らかにした。だが、それに見合うだけの注文が中国で取れるかどうか、ボーイング社はエアバスのやり方を疑問視している。

 ボーイングとエアバスの競争は中国の巨大市場をめざして、いっそう激しくなってきた。

(西川 渉、2006.4.13/加筆2006.4.14)

【関連頁】

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