<エアバス対ボーイング>

A350設計見直しへ

  

 4月17日付けの「USAトゥデイ」紙によれば、エアバス社はついにA350の設計について見直しの検討をはじめたらしい。A350が2004年の受注開始から100機しか注文を取っていないのに対し、競争相手のボーイング787は受注数が3倍の291機になった。今のままでは、ますます水をあけられるというのがエアバス社の懸念だ。

 しかし設計の見直しということになれば、コストがかかり、時間も延びる。就航できるのはボーイング機の4年後、2012年ということになろう。

 これで顧客との関係も悪くなる。発注ずみのエアライン各社はもとより、新たにシンガポール航空、エミレーツ航空、英国航空、ルフトハンザ航空、そしてILFCリース、GEリースなどがファーンボロ航空ショーに向かって発注の決意を固めるところだった。それが全て行き場をなくしてしまう。

 さらにエアバス社は、これまで250〜300席クラスの旅客機で優位を保ってきたが、その地位も譲らなければならない。エアバス自体の立場もぐらつく。そのフラフラになった姿を航空ショーでさらさねばならぬかもしれないのだ。

 ボーイング787やA350クラスの旅客機は、今後20年間に3,000機の需要があると見られている。1機1.65〜1.8億ドルとすれば5,000億ドル以上(約60兆円)の市場である。その市場を、これまではボーイングとエアバスが半分ずつ分け合うと見られていた。しかし、今の事態からすれば、エアバスの取り分は4分の1程度に落ちるであろう。

 もうひとつ、これまではA350と787を比較する場合、顧客は787の胴体が全複合材製であることに懸念を持っていた。複合材の胴体は前例のないリスクで、ボーイング社は思い切った賭けに出たのである。しかし今や、賭けが賭けではなくなった。むしろA300以来の設計を基本とするA350のの方が、古すぎて駄目ということになったのだ。

 A350の設計見直しということになれば、改めて30〜50億ドル(約3,500〜6,000億円)の資金が必要になる。エアバス社はすでに、A380の開発にも110億ドル(約1.3兆円)を投じている。今年末にはシンガポール〜シドニー線に就航の予定だが、その売れ行きも伸び悩んでいる。

 そこでエアバス社としては、A350の再設計に政府の資金援助を受けなければならないであろう。だが、そうなるとボーイングとの間に公正な競争をめぐる論争が再燃することは間違いない。

 おまけに英BAEシステムズ社がエアバスから撤退したいと言い出した。現有2割の株式を売り戻したいというのである。さらにドイツやフランスの地元からも、エアバスの株式を返上したいという企業が出てきた。

 エアバス社は四面楚歌に包囲されたかのようである。

【エアバス対ボーイング関連頁】
   どうするA350(2006.4.12)
   A350の設計見直しか(2006.3.31)
   ボーイングの鼻息(2006.3.30)
   787ストレッチ型の開発決断(2006.3.29)
   ストレッチ型787の開発へ(2006.1.11)  

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