<本のしおり>

嘘つきは大統領の始まり

 昔、ジョージ・ワシントンが子供だった頃、父親の大事にしていた桜の木を斧で切ってしまった。しかし正直に「僕がやりました」と告白して、父親に褒められた話がある。

 これを馬之介、本で読んだか修身の時間に習ったか忘れたが、アメリカ人の多くもこの初代大統領の逸話を聞いて育ったはず。だから「ユーアーライヤー(お前は嘘つきだ)」と言われるのが最も身にこたえると聞いたことがある。

 ところが、その伝統を破って45代大統領になったドナルド・トランプは、次々と嘘を連発する。しかもどうでもいいようなことにこだわって嘘をつく。

 最近の「ニューズウィーク」日本版は「ドナルド゙・トランプは嘘をつく。嘘ではなく本当の話」という記事を載せ、選挙中だけでも嘘の発言が560件だったと書いている。

 そして、いよいよ大統領になれば嘘をつく必要もなかろうと思ったところ、「就任式の観客数は過去最大だった」と言ってみたり、「就任演説が始まると雨が止んで空は晴れわたり、話を終えて立ち去ると大雨になった」などと言い張る。

 事実は、オバマ大統領就任式の半分くらいの観客だったし、話が始まると雨が降り出し、壇上の何人かがビニールのポンチョなどをかぶり始めたようすがテレビ映像にも残っている。

 日本に向かっても「自動車をどんどん輸出してきながら、アメリカの車には関税をかけている」と嘘を流す。実際は、日本からアメリカへの自動車輸出には2.5%の関税が課せられるが、アメリカから日本向けの関税はゼロである。それでも日本車の輸出が多いのは優秀だからであって、それよりも劣るアメリカ車をわざわざ輸入して乗ろうという日本人が少ないだけのこと。

 このような見え透いた嘘は論破するのも簡単だが、この男は聞く耳を持たない。嘘を「確信犯的に使用」しているのでタチが悪い。むしろ論争が大きくなれば、「憎い日本を懲罰する」という「政治劇」となって、その果たし合いを面白く見せるには「事実などどうでもいい」という「劇場型パフォーマンス」に巻きこまれてしまう。

 この男に向かっては「ユーアーライヤー」と言うよりは、彼のテレビ番組「アプレンティス」(見習い)」の中で叫んでいた決めぜりふ「ユーアーファイヤード」(お前はクビだ)と言うべきであろう。

 「嘘つきは泥棒の始まり」というが、「大統領の始まり」であってはなるまい。

(野次馬之介、2017.1.27)

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