<ボーイング>

787を遅らせたのは誰か

 ボーイング社は12月11日、開発作業が遅れている787旅客機について、2008年末までに量産1号機を全日空へ引渡すと発表した。当初予定の08年5月から7ヵ月ほど遅れることになる。

 同機の初飛行は2008年1月の予定で、合わせて6機が試験飛行に使われる。

 こうした遅れについて、ボーイング社はコスト削減のために胴体を含む主要構造部品など75%以上の開発と製造を外注に出したことに起因するとしている。その下請け企業は日本やイタリアなど世界中に広がっていて、作業能力に優劣があり、結果として不具合が発生した。そのため今年10月には787開発責任者のマイク・ベアを交替させ、不具合のあった企業に技術者を派遣するなどの手を打った。

 ベアは更迭まで4年間にわたって787の責任者をつとめた。現在はボーイングの副社長の立場にある。その役割は、787ほど切迫した業務ではなく、営業戦略を考える任務だが、その人が12月12日、ボーイング社は新しい次世代の旅客機を構想中と語った。現用737の後継機となるもので、737よりも大きい。

 しかし、その開発と製造は787のように世界中に分散するのではなく、特定のパートナーに限定し、少数の企業に集中したいという。企業の所在地もボーイングの最終組立て工場に近い方が望ましく、そのことによってジャスト・オン・タイムの納品を容易にしたいというのである。

 といって、全てをシアトル近郊に集めるわけではないが、新しい開発構想を語りながら、787の遅れの原因が主として下請け企業にあることを改めて強調する結果となった。

 ベアによれば、787の最初の主要構造部品がエバレット工場に納品されたとき、それはまだ完全な状態ではなかった。ただし下請けメーカーの責任ばかりではなく、相互の連絡不備も見られた。いずれにせよ下請けメーカーの中には、主要な企業ですら能力に欠けるところがあり、ボーイングの方で代わりに仕事をしたこともある。

 もとより「われわれは、そうした企業の能力を信じていた。しかし実際は期待通りの仕事をしてくれなかった。自ら無能ぶりを暴露したわけで、そういう企業はボーイングの将来計画には起用されないだろう」と語る。

 では、その企業とはどこか。787のパートナーとなっている主要メーカー6社の中にあるばかりではない。主要6社とは、イタリアのアレーニア、日本の三菱、富士、川崎、カンサス州ウィチタのスピリット、テキサス州のボート社である。ただし、その中のどの企業に不具合があったか、ベアは明らかにしなかった。

 また、新しい旅客機の開発に際して、下請けの製造工場をできるだけボーイング工場の近くに集めたいということからすれば、日本のメーカーが国外へ出て工場をつくるのは難しいのではないかとも述べた。もっとも日本の自動車メーカーがアメリカに工場を建てている例は非常に多いので、必ずしも不可能というわけではあるまいともいう。

 こうしてボーイングの中では、787の遅れを横目で見ながら、早くも新しい動きが始まっているかのようである。

 なお、ボーイング787は最近までにエアライン53社から762機の注文を受けている。そのうち314機は今年に入ってからの受注である。これで2014年までの製造分が売り切れたことになる。

 この受注残をこなすために、量産計画にも大きな圧力がかかっている。取りあえず2009年末までに109機を引渡す予定だが、そのためには毎週2機の製造が必要で、本当にできるのかという声も聞こえる。

 一方、ボーイング社の787遅延に伴う損害額は、顧客への弁償と製造費の増加などで25億ドル(約3,000億円)と伝えられる。

 マイク・ベアの微妙な発言は、787の遅れと、それによる損害と、自らの更迭と、これら3点からくる悔しさをにじませたものに違いない。

(西川 渉、2008.12.14)

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