<V-22オスプレイ>

驚異の兵器か未亡人製造機か

 先日の本頁にオスプレイは未亡人製造機というレポートがあると書いたら、垂直離着陸機研究家の細田六郎氏から、どんな内容かというご質問を受けた。

 これはアメリカの世界安全保障研究所の国防情報センターが出した報告書で、このNPO法人は、国防上の政策、戦略、作戦、兵器予算などを考え、将来に向かって生産的な思考資料を、一般国民はもとより政府や議会に対して提供するところだそうである。もとより政府や企業との関係はなく、人びとに事実を知らせて、公正中立な政策を立ててもらうという目的を標榜している。

 報告書の表題は「V-22オスプレイ――驚異の兵器か未亡人製造機か」(V-22 Osprey: Wonder Weapon or Widow Maker?)というもの。その扉には、V-22の飛行試験に参加した海兵隊員(匿名)の言葉として「V-22は戦闘に適すると思わない」という過激な言葉を掲載している。

 報告書は英文A4版50頁ほどのもので、こまかく読んでいる暇はないが、冒頭の「Executive Summary」の要約を、ここにメモしておきたい。なお最初にお断りしておくが、私自身はオスプレイの実用化に期待しているものである。しかし、この報告書がいうような欠陥があるとすれば、まことに辛いことで、何とかして克服して貰いたいと思っている。

 ともかくも、報告書の内容は次のとおりである。


報告書表紙

 V-22オスプレイは垂直離着陸と高速飛行が可能で、味方の兵員を敵地の奥深く送りこんだり、奇襲攻撃をかけることができるなど、確かに革新的な軍用機である。ところが開発段階で4回もの事故を起こし、30人の関係者を死亡させ、いったんは開発中止になった。にもかかわらず、いつの間にかよみがえり、設計上、運用上の多くの欠陥をかかえながら実用化されようとしている。

 具体的には米空軍が特殊作戦用のCV-22を50機、海軍が撃墜された味方パイロットや兵員の救出用に48機、海兵隊が現用CH-46やCH-53ヘリコプターの代替として360機を調達する計画である。しかし、このままでは莫大な予算を食いつぶすばかりでなく、多数のアメリカ兵の命をも奪うことになるであろう。

 アメリカ国防総省は2005年9月、V-22の実用試験をした結果、「MV-22は作戦遂行の上でも適切であり、陸上および洋上からの出撃に使える」との結論を出した。量産はそこからはじまったが、初飛行から17年もたっていること自体、問題であろう。つまり運用上、空力上、安全上、乗り越えられない致命的な欠陥があったのだ。

 オスプレイは2007年イラク戦線への派遣が想定されている。しかし、この航空機が正常で、こんなに手間取ることもなく完成していれば、1995年のボスニア紛争、2001年のアフガニスタン戦争、2003年のイラク戦争にも参加できたはずだ。なにしろ初飛行は1989年3月19日だったのだから。


ファーンボロで見たオスプレイ(2006年7月)

 V-22には新しい技術が採用されている。そのひとつはローターブレードで、普通のヘリコプターのブレードが柔軟でひねりが少ないのに対し、オスプレイのそれは硬くて深くねじれ、高速で回転する大きなプロペラになっている。そのため空力的に未知の領域へ踏み込んでしまった。その結果、1991年、92年に各1件、2000年に2件の事故が発生し、30人の命が奪われた。

 これら4件の事故のうち最初の3件は粗悪な部品、お粗末なソフトウェア、そして組立てラインの出鱈目な品質管理が原因であった。4番目はボルテックス・リング状態(VRS)におちいったためだ。VRSはローターが自分自身のダウンウォッシュの中に入って揚力を失い、操縦不能におちいって墜落に至る現象をいう。この現象は前進速度が遅いまま急激な垂直降下をしたときに起こる。

 そのためV-22には、垂直降下率を最大で毎分240m以下という制限が設けられた。ということは急角度の進入降下ができないわけで、いつまでも空中にとどまっていなければならず、敵の目標になりやすい。とりわけ最前線の味方陣地に兵員を送りこむ場合、ゆっくりと降下していこうものならたちまち敵の攻撃を受け、餌食になってしまう。といって急降下をすればVRSにおちいる。いずれにせよ乗員や兵員は救われず、軍用機としては致命的な欠陥である。

 オスプレイはダウンウォッシュが強い。そのため一度は2人の海兵隊員が吹き飛ばされた。もうひとつは、海面の水しぶきを舞い上がらせ、水面が見えなくなってパイロットの操縦ミスを招き、胴体下面が水についてしまったこともある。

 もうひとつ、本機はオートローテイションができない。エンジン2基が両方とも止まったとき、マニュアルでは「飛行機モードかオートローテイション」に入れるよう指示しているが、国防省の報告書は「V-22は安全なオートローテイションはできない」と書いている。

 こうしたことから、V-22が戦場へ送りこまれるならば、味方の犠牲者が増えることとなろう。


V-22の前途にあるのは朝日か夕日か

 V-22は2000年12月に死亡事故を起こしたが、それに先だって油圧系統の故障を170回も起こしていた。事故のあとは飛行停止となったが、やがて再開されたときはプロペラの部品数が減っていた。また2006年3月、V-22はアイドル運転中に勝手に飛び上がり、尻餅をつくような恰好で地面に叩きつけられた。

 こんな航空機が1機7,000万ドルというのだから、オスプレイは税金を無限に呑みこんでゆく空井戸のようなものである。それというのもアメリカ議会の議員276人の地元で、オスプレイのさまざまな部品を製造しているからだ。軍と議会と産業界の3者癒着の構造であり、その強力なることはオスプレイに如何なる問題があろうと、とにかく予定通りに計画を進めて、中止などは全く考えられない。

 オスプレイは試験飛行も不十分である。たとえばVRSによる事故のあと、その試験をすることになっていたが、やがてこれはキャンセルされた。また恐らくV-22は1発停止しても垂直離着陸が可能のはずだが、過去17年間一度も試みたたことがないという。

 また夜間飛行は29回のテストが行なわれたが、最後まで完了したのはわずか12回だけであった。またダウンウォッシュが強いにもかかわらず、土ぼこりを舞い上げるブラウンアウトのテストもしたことがない。

 V-22は運用能力も目標に達していない。たとえば4.5トンの資材を吊下げ輸送する場合、航続距離は目標の58%にしかならない。コンピューターによる作戦任務計画システムも不十分である。またV-22は武装した高機動の多目的車両の輸送もできない。

 かつてV-22のテスト計画立案にあたって、ボルテックス・リング(VRS)の試験を計画に入れないことにした経緯がある。この試験を実施していれば2000年12月の事故もなく、19人の海兵隊員の命も失われずにすんだかもしれない。

 一方では、設計や部品の欠陥が修正されないまま残っているが、これでは今後なお人命が失われるであろう。

 V-22は戦場に派遣すべきではない。その代わりに現在使用中のヘリコプターの中からV-22に代わるものを選んで送り出すべきである。

 V-22の開発から25年が経過した。この間30人の生命と180万ドルが空しく費やされた。われわれは今直ちに行動を起こして、命を守るべきである。

 以上が総数約50頁の中の最初の3頁の要約である。部品の欠陥とかテストをしなかったとか、どこまでが本当で、どこから誇張か、私にはよく分からない。

 著者のリー・ゲラード(Lee Gaillard)という人は、私は全く知らないが、イェール大学を出たのち、ミドルベリー大学で英米文学の修士を取り、海兵隊予備役やタイム・ライフなどで仕事をした。その後も、いくつかの仕事を経て、軍事問題の専門家としてディフェンス・ニュース、ワシントン・タイムズ、シアトル・タイムズ、軍事ジャーナルなど多数の新聞雑誌に記事を書くようになったという。

 したがって特定の思想をもった運動家が批判のための批判を書いているわけではないと思われるものの、内容が過激なだけに、読む方が一歩下がってしまうところがある。

 残り40頁余の本文も、読んでいくと垂直飛行の開発の歴史や、V-22開発の経過が詳しく書いてあって、なかなか面白い。今すぐ日本語にする時間はないけれども、いずれ機会があるかもしれない。

 一方で、現実のV-22オスプレイには未亡人製造機などといわれぬように、ティルトローターの特性を安全かつ充分に発揮して貰いたいと思う。

(西川 渉、2007.2.2)


ボーイング・フィラデルフィア工場で組立て中のオスプレイ
(2005年2月撮影)

【関連頁】

  V-22量産6年計画(2007.1.26)
  
オスプレイの量産承認(2005.9.30)
  
空軍へCV-22初号機を引渡し(2005.9.22)
  
オスプレイ再確認試験完了(2005.7.19)
 
 オスプレイ工場を見る (2005.5.16)
  ティルトローター機の展望(2004.5.25) 

(西川 渉、2007.2.2)

(表紙へ戻る)