<ボーイング787>

本年中に初飛行へ

 ボーイング社は8月27日、787の初飛行は年内に可能という見通しを発表した。また、その後の試験飛行期間については、これまでの計画より3ヵ月間延ばして余裕をもたせ、2010年秋までに型式証明を取り、同年第4四半期から量産機の引渡しに入るとした。この1号機を受け取る全日空は、本来2008年5月に受領の予定だったから、ほぼ2年半の遅れとなる。

 同機はこれまで5回にわたって計画が遅れた。これが最終的な日程になるかどうか、航空関係者の多くはまだ半信半疑で見ている。というのも、ボーイング社は遅延発表のたびに自信たっぷりの姿勢で「問題の解決は簡単」「これで間違いない」「今度こそ大丈夫」と繰り返してきた。本当に大丈夫なのか、というのが関係者や専門家の見方である。それでもウォール街のニューヨーク株式市場では、今回の発表でボーイング株が8%以上値上がりした。

 787の初飛行は本来2007年8月27日と、こまかい日にちまで設定されていた。しかし設計上、製造上の問題で遅れたことから、全複合材製の機体に対する疑問が生じた。また部品の製造を世界中の下請けメーカーに外注し、最終組立てだけをシアトルでおこなうという製造方式も問題視された。

 こうした技術的な問題と同時に、作業遅延に伴う経費の増加やエアラインに対する違約金の支払いなど、経済的な負担も増大しつつある。今や787問題は、技術的な日程よりも経費的な問題が大きくなったという見方もある。

 最後の遅延は今年6月、パリ航空ショーの直後に明らかになった。ショー会場ではボーイングの経営陣が今日にでも飛ぶと云いながら、舌の根も乾かぬうちに飛行延期の発表があったわけで、このドタキャンには誰もが言葉を失い、茫然となった。

 飛行延期の理由は、主翼と胴体の取りつけ部の強化が必要というのだから、飛行の直前になって基本構造が問題になるなどは、きわめて深刻な事態といってよいであろう。

 こうした問題によって、787への注文は、今年になって73機のキャンセルがあったが、今なお850機の受注をかかえている。これが如何に多いかは、777の同じ時期、初飛行前の受注数が213機であったことからも分かる。

 しかしボーイングに対するエアラインからの信用はほとんど失われかけている。カンタス航空とヴァージン・アトランティック航空は787が待ちきれず、エアバスA330を発注した。ヴァージンが最初の787を受け取るのは2013年なかば頃になると見られる。

 かくて787は、ボーイングの航空機開発史の上で最も手こずり、最も遅れ、最も金のかかった機体となった。その金額は研究開発費とエアラインへの違約金を合わせて、およそ200億ドル(約2兆円)と推定される。

 にもかかわらず、ボーイングの強気は変わらない。経済的には成功であり、最終的には利益をもたらすというのである。だが、果たして如何? 2013年末までには月産10機の軌道に乗せるというのだが。

【関連頁】

   787年内には飛べるか(2009.8.24)
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   カタール怒る(2009.7.28)
   ボーイング787飛行日程定まらず(2009.7.27)
   ボーイング787年内の飛行は無理か(2009.7.23)
   ボーイング787走行試験開始(2009.7.20)

(西川 渉、2009.8.31)

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