<エアバス対ボーイング>

A350の設計変更具体化

  

 エアバス社はA350双発旅客機の設計について、ILFC国際リース・ファイナンス社、エミレーツ航空、シンガポール航空からの批判を受け、大幅変更に踏み切るかもしれない。場合によってはA350をやめてしまい、A370という新しい呼称に改めるとも伝えられる。いずれにせよ、エアバス社はこの夏までに何らかの決断をするものと思われる。

 当面考えられる設計変更のひとつは、キャビン幅を最大14インチ(0.35m)まで広げ、左右の座席数を9列とする。きっかけはエミレーツ航空が現用の左右9列の座席をエアバス・トゥールーズ工場に送りつけ、実際にA350のモックアップに取り付けられるかどうかを試したところ、今の胴体幅では不可能だった。一方ボーイング787は同じ座席が8列でも9列でも取りつけ可能という。

 しかし胴体は依然として金属製。ボーイング787のように複合材に踏み切る考えはないようだが、主翼は複合材として、形状も大きくする。これがA350の第2の大きな変更である。

 第3にエンジン出力を強化して、巡航速度をマッハ0.85まで上げる。


A350のキャビン――客席は左右8列だが、
それを9列にして貰いたいというのがエアラインの要求

 こうしてA350は新しい3種類に生まれ変わる。呼称はA350-800とA350-900は変わらないが、新しくA350-1000が加わる。A350-800は現用A330-200の後継機として787-3/8/9に対抗し、-900は777-200ERと787-10が直接の競争相手となる。

 また-1000は胴体直径が19インチ(0.48m)大きくなって、乗客数は350人乗り。ペイロード、航続距離ともに777-300ERと肩を並べ、燃料消費は2割減となる。ただし、この場合は推力10万ポンドの新しいエンジンが必要になるので、それが実現できなければ4発機になるかもしれない。なお胴体直径が変わるのは、2階建てのA380は別として、エアバス社としては1960年代末に設計されたA300以来初めてのこと。したがって、その製造もトゥールーズではなく、ドイツのハンブルクで行なわれるかもしれない。

 生まれ変わったA350長距離用ワイドボディ機の就航時期は、当初計画の2010年よりも遅れて、2012年後半になるもよう。ただし本当のところは、もっと遅れるかもしれないという見方もあり、ボーイング787に対して少なくとも4年遅れとなってきた。また、胴体直径が大きくなるA350-1000の就航は、2013〜14年になると見られる。

 設計変更の詳細と開発日程などは、7月のファーンボロ航空ショーで発表になるであろう。

 というわけで、現実の受注競争でもボーイングの勢いはすさまじく、エアバスはややもたつき気味である。

 今年1〜4月の受注実績は、ボーイングが325機であった。対するエアバスは99機にとどまっている。しかし引渡し数は、これは昨年までの受注数が反映しているわけだが、エアバスが142機、ボーイングが126機である。機種別の詳細は下表の通り。

 なお最近、エネルギー問題をめぐってアメリカとロシアが対立しており、チェイニー米副大統領がロシアを批判し、プーチン露大統領が反発するなどの政治的な動きから、アエロフロート国営航空はボーイング787の発注を取りやめ、エアバスA350を22機発注することになろうというニュースも伝えられる。さらにボーイング従業員のストなどもあって、前途はボーイングにとっても安穏ではない。 

2006年1〜4月の受注数と引渡し実積

機     種

受注数

引渡し数

エアバス

A320ファミリー

79

112

A300-600F

3

A330-200

3

14

A330-300

1

8

A340-300

3

A350

13

A340-600

5

合  計

99

142

ボーイング

717

3

737NG

260

88

BBJ

5

747-400F

2

5

767

4

3

777

22

787

59

合  計

325

126

【エアバス対ボーイング関連頁】
   天馬空をゆくか(2006.4.24)
   A350設計見直しへ(2006.4.19)
   どうするA350(2006.4.12)
   A350の設計見直しか(2006.3.31)
   ボーイングの鼻息(2006.3.30)
   787ストレッチ型の開発決断(2006.3.29)
   ストレッチ型787の開発へ(2006.1.11)  

(西川 渉、2006.5.11)

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