<小言航兵衛>

計画停電の本義

  • 福島第一3号機も海に高汚染水(5/12)
  • 汚染水の流出阻止限界/またピット亀裂(5/12)
  • 東電高放射線情報公表せず/3号機爆発前把握(5/13)
  • 1号機大量溶融で作業難航/収束工程見直し必至(5/13)
  • 甘い溶融想定/1号機水位計、信頼性低く(5/13)
  • 1号機冠水計画見直し/低水位のまま循環(5/14)
  • 原発無人ロボ/東電いらぬ/JCO事故後30億円で開発→結局廃棄(5/14)
  • 業界慢心ロボ頓挫/人が突っ込めばいい(5/14)
  • 福島第一原発作業員死亡(5/14)
  • 1号機地階に汚染水/3千トン冠水を断念(5/15)
  • 汚染水再循環急務(5/15)
  • 建屋内2000ミリ・シーベルト(5/15)
  • 厳しい環境難工事(5/15)
  • フクシマ依然深刻な状態(5/15)
  • 2・3号機もメルトダウン(5/17)
  • 核燃料汚染格納容器まで(5/17)
  • 甘い想定浮き彫り(5/17)

 上の列記は5月12日から6日間ほどの朝日新聞の見出しである。こうして並べただけで、わずかな間に刻々と事態が悪化してゆく様子が分かる。そしてついに5月20日、東電社長の退任が決まった。ほかにも何人かの担当副社長が道連れとなり、6月末の株主総会で正式決定となるらしい。

 辞める人のことをとやかく言いたくはないが、原発事故が起こってから数日間、雲隠れしたか入院したか、社長の顔がどこにも見えなかったのはいったい何故(なにゆえ)だったのか。未だによく分からない。

 もう一つ分からないのは、この社長さんが関西方面に出かけていて東京へ戻るのに、急ぐ必要があるといって自衛隊機に乗ったのはどういうことか。何故そのような特権が与えられているのか。まったく不可解というほかはない。

 この一件は、同じ輸送機を被災地への緊急物資輸送に使うため、途中から引っ返したことで露見したが、民間企業の社長が如何に急ぐといっても、自衛隊の航空機を利用できるなどは聞いたことがない。ほかの企業も同じような恩恵を受けているのか。言い換えれば、自衛隊は普段からそういうサービスをしているのか。誰も何もいわないけれど、防衛省の明快な説明を聞きたいところである。 

 そこで思い出すのは数年前の上海で、退役軍人の車に乗せて貰ったことがある。その車は自家用車であるにもかかわらず、何故か中国人民軍のナンバープレートをつけていて、高速道路は無料だし、市街地のどこに駐車しようと咎められることはないらしい。なるほど航兵衛と食事をした2〜3時間、駐車禁止のはずの飯屋の前に堂々と駐めてあった。その車を、元大佐どのは自分で運転しながら、得意気に話を聞かせてくれたが、そんなケチな特権ではなくて、日本では民間企業の社長でも自衛隊機を自家用機代わりに使えることをあの大佐に聞かせたらさぞかし悔しがるであろう。

 さらに、特権といえば、事故のあとの計画停電に際して、わずかな期間に2度も3度も停電したところがあるかと思えば、東電の役員たちが住んでいる地区は停電しなかったという話を聞いた。なるほど計画停電とは、自分たちの住まいだけは停電させない「計画」だったのかと、今にして思い当たる。

 こんな特権意識が、あの会社のどのような風土から生まれたのか。それがまかり通ると思っている奢りこそが原発事故をもたらしたというべきであろう。

 もうひとつの奢りは、上の新聞の見出しにも見える通り、万一のときのロボットすらも東電は準備していなかった。実際は昔、国が30億円の予算で6台を開発したらしい。ところが東電は「要らぬ」といって断り、今回の事故ではアメリカ製のロボットが使われた。ロボットを断った理由(わけ)は「原発で事故は起きないから、ロボットも不要」というのだそうで、如何にバカな連中が危険な原子炉を扱っていたかが分かる。そのうえ、莫大な予算をかけながら、せっかくのロボットを黙って廃棄した国もバカ、というよりは大バカである。

 しかも「いざとなれば人が突っ込めばいい」というのだから、論理矛盾をきたしているばかりか、人間らしさのカケラもない。そのことが今も放射能を浴びながら作業に当たっている現場の社員や下請け、孫請けの作業員に対する非人間的な扱いとなって現れているのであろう。現に上の見出しの列記にも見られるように、ロボットを廃棄したという同じ新聞紙面に「原発作業員死亡」の記事が並んでいるのだ。

 これからは本社の役員や幹部諸公に現場作業をやって貰ったらどうだろうか。どうせ難しいことはできないだろうから、放射能を帯びたがれきの片付けなどが適当かと思う。

 まあ、しかし、余り情けないことばかり書いていては、読む人も面白くなかろうし、こちらも気が滅入ってくる。最後に米空母ロナルド・レーガンの艦長が自らヘリコプターで東北の被災地に救援物資を運んだときの感想を書き写しておきたい。

 これは山際澄夫記者が月刊ウィル(WiLL)誌6月号で報じていることだが、よその国では災害地に救援物資を運んでゆくと、ヘリコプターに被災者が群がるので危なくて仕方がない。やむを得ず、空中投下をせざるを得ぬが、「日本人はお腹がすいているはずなのに、ちゃんと待っている。しかも食料を渡すとお礼をいい、他にいるものはないかというと、あとは食料の足りない別の場所に持って行ってくれという。どんな状況になっても礼節を失わない日本人は素晴らしい」

(小言航兵衛、2011.5.23)

【関連頁】
   <小言航兵衛>原発黙示録(2011.5.22)
   <原発事故>ある英雄パイロットの死(2011.4.25)
   <小言航兵衛>核戦争が始まった(2011.4.16)
   <小言航兵衛>日本メルトダウン(2011.4.12)
   <小言航兵衛>放射能下に生きる(2011.4.9)
   <小言航兵衛>原子炉注水(2011.3.19)
   <小言航兵衛>天罰(2011.3.17)

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