<エアバス対ボーイング>

パリの総括

 

 パリの空の下で闘わされたエアバス対ボーイングの受注競争は、航空ショーでビジネス取引のおこなわれるトレード・デイの最終日、6月16日のことだが、突如エアバス社が138機という大量受注を発表して勝負の決着をつける形となった。

 138機の内訳は、インドのインディゴーから100機のA320。ブラジルのTAM航空から8機のA350と20機のA320、メキシコのABC航空から10機のA320である。

 これでパリ航空ショーの間にエアバス社が発表した受注数は261機となり、ボーイングの146機を大きく抜き去った。ただし、これらの数字は必ずしも確定発注や正式契約ばかりでなく、エアラインの発注意向表明なども含まれているので、最終的な勝負はメーカー両社が今後どこまで正式契約に持ち込めるかにかかっている。詳細は下表の通りである。

パリ航空ショーでの受注数

     

エアバス

ボーイング

合計

地 域

航空会社

機種

受注機数

航空会社

機種

受注機数

インド

キングフィッシャー

A380

5

ジェット航空

737

10

145

A350

5

737

10

A330

5

――

インディゴ

A320

100

ジェット航空

A330

10

中東

カタール航空

A350

60

カタール航空

777

20

92

ALAFCO(クェート)

A350

12

――

その他

TAM(ブラジル)

A350

8

アラスカ航空

737

35

170

A320

20

ライアンエア

737

5

GECASリース

A350

10

GECASリース

737

20

ABC(メキシコ)

A320

10

ILFCリース

737

20

タイガー航空(シンガポール)

A320

8

777

8

エアカイロ(エジプト)

A320

6

エアヨーロッパ

737

18

エアカリブ

A330

2

――

合計

261

146

407

 なお、エアバス社はほかにも、未発表ではあるが、ほぼ確実な受注見こみ40機をかかえているというから、それを合わせると、受注数はボーイングの2倍ということになる。

 それにしても、今年のパリ航空ショーは上表にも見るように、インドの大型旅客機発注が目立った。中東の金満エアラインの1.5倍を発注して、大いに気を吐いたことになる。

 キングフィッシャーについては本頁でも先にご紹介した。もうひとつの、新たに登場したインディゴー(IndiGo)は、これまで誰も聞いたことのない名前だが、インドの旅行会社が立ち上げた格安エアラインだそうである。経営トップは、かつてユナイテッド航空、エールフランス、USエアウェイズで仕事をしていた人で、航空界のことを熟知し、市場を確かめた上での発足という。

 しかし、まだ1度も飛行機を飛ばしたことのない航空会社である。それが一挙に100機を発注しながら、その発表はエアバス社のニュース・レリーズだけ。記者会見がなかったどころか、インディゴーの経営陣は誰もパリには来ていなかったらしい。しかも100機の買い物といえば、リスト・プライスおよそ60億ドル(約6,500億円)という巨額の取引きで、果たして最終的に正式契約が実現するのかどうか危ぶむ声もある。報道陣が半信半疑になるのもやむを得ないであろう。引渡しは2006年からはじまり、インド国内線を飛ぶことになっている。

 このようにインドからの発注が多くなったのは、今インドが急速な経済成長をつづけているためだ。航空旅客需要も経済成長率を上回る速さで増大しつつあり、2010年には巨大な市場になるものと見られる。

 インド航空界を騒がしているもうひとつの動きは、今年春からアメリカやイギリスとの間で、航空の自由化がはじまったことである。これで、相互に乗り入れる便数や運賃が自由になり、インドへ乗り入れる外国エアラインも増えつつある。その一方で、インドからも国際線を開設する動きが活発になり、新しいエアラインが名乗りを上げ始めた。

 インドは、ご承知の通り、コンピューターソフトに関連する事業が盛んである。ということはサンフランシスコ南方のシリコンバレーとの関係が深く、人の往来も多い。しかしインドからアメリカへ飛ぶには長航続の飛行機が必要になる。A350や787、さらにはA380といった新しい機材は、そうした長距離路線の必要性に応えるものでもある。

 インドの台頭によって、世界の航空界は意外なところから新しい変化を見せはじめた。今年のパリ航空ショーは、そのことを強く印象づける結果ともなった。

 

(西川 渉、2005.6.20)

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