コンコルドの混沌

 

 コンコルドSSTの状況がいっそう混沌としてきた。タイヤ・パンクの原因となった金属片が米コンチネンタル航空のDC-10から脱落したものであることは間違いないようだが、いくつかの報道によると、正規の部品ではなかったらしい。本来ならば軟らかい合金であるべきところ、この金属片は硬いチタニウム製であった。スラストリバーサーのメーカーも、これが本来の部品ではないと語っている。

 事故のもようは、本頁でもこれまで何度か書いてきたが、コンコルドはこの金属片を左主脚で踏んでタイヤがパンクし、翼から火を発したために、左側両エンジンの推力を弱めてしまった。機は、それから1分ほどのうちに墜落、113人が死亡した。その結果、いまのところは耐空証明も停止となっている。

 スラストリバーサーのメーカーはGEの子会社ミドルリバー。同社では、この部品が「かなり昔のものだが、工場を出たあとは、どこをどう通ってシャルル・ドゴール空港の滑走路上に落ちていたのか全く分からない」という。

 これが軟らかい合金であれば、タイヤをパンクさせなかったかどうかも分からない。しかし同社は、この部品が出荷されて1年ほどのち、ほかの合金製品に取り換えるよう航空会社に勧告している。そのうえ、この部分は摩耗しやすいので、ほかの部品よりも頻繁に取り換えるよう勧告を出しているともいう。そんな旧式の部品が20年ほど経った今までなぜ使われていたのか。おまけに取りつけリベットの孔の位置が正しくそろっていない。間隔が不等で、正規の有資格者がやった仕事は思えない。その作業を誰がしたのかも分からない。

 いずれにせよ、部品を落として去ったDC-10の整備作業がお粗末だったという見方である。そこから先日の本頁にも書いたように、エールフランスがコンチネンタル航空を訴えるということになったのであろう。

 墜落したコンコルドに乗っていたドイツ人の遺族団もコンチネンタルに対してDC-10の整備記録を開示するよう求めている。

 こうして、コンコルドの謎は、いつの間にかDC-10の謎に行ってしまい、まずそこから解明しなければならないような広がりを見せてきた。

 

 一方、航空会社の方ではコンコルドの飛行再開のために、さまざまな研究をつづけている。たとえば、燃料タンクに柔軟なケブラー複合材を使い、穴があいて燃料もれがはじまっても、その流出速度を抑えて、火がつかないようにするといった対策である。

 フィナンシャル・タイムズによれば、英国航空は2001年2月までにコンコルドの飛行を再開する目標で、メーカー側に年内に燃料タンク周辺の改造をするよう求めている。またフライト誌はコンコルドの耐空証明が2001年なかばまでに再交付されるならば、2002年2月までに運航が再開できるとしている。しかし、それ以上遅れるようならば、永久に飛べないかもしれないとも。

 コンコルドはますます混乱の中に踏み込み、その前途は混沌としてきた。しっかりせよ。

(西川 渉、2000.10.30)

【関連頁】
   飛べ、コンコルド――コンコルド事故(9)(2000.10.18)
   コンコルドの混乱――コンコルド事故(8)(2000.10.2)
   コンコルドは悪くない――コンコルド事故(7)(2000.9.16)
   コンコルドの操縦――コンコルド事故(6)(2000.9.11)
   文化としてのコンコルド――コンコルド事故(5)(2000.9.8)
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   怪鳥ではなく快鳥だ――コンコルド事故(2)(2000.8.14)
   コンコルドの事故(2000.8.9)

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