<ボーイング>
ドリームライナーの悪夢 ボーイング787の前途がますます混沌としてきた。同機の初飛行が3月末まで遅れるとか、6月になるかもしれないといった報道があり、したがって2008年中の引渡し開始もあやしくなった。787試作1号機の再組立てが混乱しているためという。むしろ2号機の方が進んでいるらしく、ひょっとしたら先に飛ぶかもしれないと伝えられる。
そして1月23日ついに、ボーイング社は787の初飛行の遅れを認め、2008年中の実用機の引渡しはないと発表した。また先般来、2009年末までに109機を完成させるとしていたが、これも不可能であることを認めた。
787の作業が遅れている理由は、主にファスナーその他のこまごました部品の不足が一因だが、もう一つは電子機器と電気系統の未完成にあるらしい。機体全体の電源が入れられるようになるのは、おそらく4月になるもようで、そこから2ヵ月ほどかかって複雑多岐にわたる作動テストを行なうとすれば、飛べるのはどうしても6月である。
確かにシアトルのエバレット工場だけは、787の最終組み立てが3日で終わるよう立派に準備をしてきた。しかし787の製造は作業の大半が世界中の下請け工場でおこなわれる。それらの工場の態勢がエバレットなみに準備されていたのか。見過ごしがあったのではないかというのが今になっての反省である。
トヨタ自動車のようなかんばん方式を採用し、必要な部品が必要な時にジャスト・オンタイムでエバレット工場に入ってくる。それを3日で組立てるので製造コストも下がる――理想と理論はそのとおりだが、現実は理屈通りには進まない。
航空機の開発と製造はおそろしく複雑で微妙な作業である。その作業を空間的には世界中に広げ、時間的には極度に短縮し、複合材の胴体など初めてともいうべき最新の技術を採用しながら、最大の安全を確保しなければならない。なかなか出来ることではあるまい。
エアバスA380でも、似たような遅れが生じたことは周知のとおりである。もとより両社の問題は異なるけれども、似ているのは恐らく両社ともに、初めのうちは問題を軽く見ていたフシがある。1ヵ月で解決すると思った問題が意外に厄介で、3ヵ月もかかってしまうなど、787の場合は遅延期間の修正がこの半年間に3回もおこなわれたほどだ。
おまけにボーイングの場合、今からふり返って詰まらぬ恥をさらしたのは、2007年7月8日――アメリカ式に書けば7月8日07年(7/8/7)が飛行機の呼称と同じだというので、この日付けに固執したことであろう。そのため張り子の機体を工場から引き出して、ロールアウトのセレモニーを華々しくやってしまった。あれから早くも半年が過ぎ去り、初飛行は今後なお5ヵ月先だというのである。つまり原型機のロールアウトから初飛行まで1年近くかかることになる。
実態の伴わない宣伝や体裁が優先されるなどは、安全という観点からすれば対極にあるはず。航空機メーカーとしては最も避けるべきことであった。しかるに、そんなバカげたことが現実に起るのは何故か。ボーイングという巨大企業の組織にリーダーシップがなくなり、ガタがきているのではないかという厳しい見方もある。
ボーイングの悪夢はまだしばらく覚めそうもない。
(西川 渉、2008.1.28)
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