<エアバスA350>

A370へ変身か

 どうやらエアバス社はA350の設計を変更して、新たにA370という呼称にするらしい。イメージ一新のためには呼び名を変えるのが手っとり早い。というのもA350について、エアバス社が広告などで「全く新しいA350」と称しているのに対し、メディアの中には「半分新しいA350」などと書いているところがある。

 A370は、しかし、名前ばかりではない。基本的にはA350の設計案より大きくなるもようで、キャビン幅を5.28mから5.99mに広げ、左右9列の座席配置を可能とする。そのためにはエンジン出力を上げなくてはならない。今週の英「フライト・インターナショナル」誌(6月6日号)が伝えるところでは、これまでのA350-800/900が推力72,000lb(約32t)のエンジン2基を想定していたのに対し、A370-1000は85,000〜95,000lb(約38〜43t)という遙かに大きなエンジンを取りつけることになるもよう。

 そのためロールスロイス社は開発契約に応じる意向だが、GEの考えはまだ固まっていない。

 A370にとって、もうひとつ大きな問題は、すでにA350を発注している顧客との関係。新しい計画がすんなり受け入れてもらえるならば好いけれども、少なくとも価格交渉や引渡し時期の調整が必要になろう。この設計変更は、元来エミレーツ航空やシンガポール航空の要求に応じるもので、そのあたりはうまくゆくかもしれぬが、完成時期が余り遅くなるようであれば注文取り消しが出るかもしれない。

 現に最近のニュースでは、60機のA350を発注する意向を示していたカタール航空が待ちきれないとして、ボーイング787に切り換える考えを表明している。787の就航が2008年であるのに対し、A350もしくはA370が2012年では遅すぎるという理由。そのうえ「彼らは勝手にルールを変え、機体を大きくしようとしているが、そんな提案は受けたことがない」という怒りの発言もしている。

 A350を大きくするのは、同じ中東地域のエミレーツ航空の要求だから、カタール航空としては対抗意識があるのかもしれない。あるいは単なるジェスチャかもしれないが、本当に取り消されたら大変だ。

 というのも、A350の確定受注数はこれまで100機しかなかった。それにカタール航空の60機が加わることを期待しているエアバス社にとって、これが取り消しになれば大きな痛手となる。

 一方、ボーイング787の方は、確定受注数がすでに350機に達している。

 それを追ってA350かA370か、7月なかばのファーンボロ航空ショーで明確になるのだろうが、どちらにしても、その前途は決して容易ではない。


誰が考えたか、A370の完成予想図だそうである。ボーイングもたまげるだろう。

(西川 渉、2006.6.12)

【エアバス対ボーイング関連頁】
   混沌のエアバスA350(2006.5.12)
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