<ファーンボロ2006>
エアバスA350XWB ファーンボロ航空ショーの初日、エアバス社が乾坤一擲をねらって発表したA350XWB(エキストラ・ワイドボディ)とは、どんな旅客機であろうか。その特性を発表時のスライドで見てゆくことにしよう。
ただし、筆者がすわった記者席はスクリーンの正面ではなく、ななめの方向にあたる位置だった。そのため写真もななめに撮ることになり、画面もななめに写っている。可能な限り修正したつもりだが、見ぐるしいところはご容赦いただきたい。
なお、この発表が行なわれた7月17日の時点で、A350は14社から182機の注文を受けていた。それに対し、ボーイング787の受注数は403機――A350の2倍以上という差をつけていた。エアバス社は今後、これをどこまで縮めることができるだろうか。
A350XWBの特徴。キャビンは広くて快適になり、各席のIFE(In-Flight Entertainment=娯楽設備)も充実している。コクピットはA380と共通するところが多い。
空力特性は他に類をみないほど効率的で、マッハ0.85の巡航性能を有する。
機体構造は軽量、頑健で、容易に修理が可能。
エンジンは最新の技術を採り入れ、最良の燃料効率を発揮、環境にもやさしい。
新しいA350XWBは、どのように変わったか。キャビン直径はA330よりも12インチ大きくなり、窓も左右に2インチ広がった。
主翼は後退角が3°増の33°。これで巡航速度もマッハ0.85まで増した。
エンジンは推力75,000〜95,000ポンド。燃料消費率は2%良くなり、エンジンの整備費は5%減となった。
A350XWBには3種類の派生型が計画されている。3機種ともに同じ8,500nmの航続性能を持つ。それぞれの最大離陸重量とエンジン推力は、最も小さいA350-800が245トンで推力75,000ポンド、-900が265トンで87,000ポンド、-1000が290トンで95,000ポンド。
航続距離については、いずれも787を上回る。
A350XWBは、最新の材料を使用する。機体の62%は新しい複合材と金属材料を混用し最適の状態を実現する。そのため1席あたりの空虚重量は、ボーイング777を基準に取ると、787が12%減、A350XWBは14%減になる。
エンジンは3機種共通で、次世代の効率の良いものを搭載する。騒音や排気ガスが少なく、推力の範囲はこの図に示すとおりである。
なお将来は、A350-900のエンジン出力を上げ、最大離陸重量を増やして燃料搭載量を増した超長航続型A350-900Rを開発する。
キャビン幅は競争相手の787より広い。目の高さで5インチ増の211インチ。肩の高さで4インチ増、肘掛けの高さで3インチ増の218インチとなる。
キャビン環境はきわめて快適である。与圧は高度6,000フィート相当以下。湿度は20%、キャビンの空気の循環も快適で、機内騒音は非常に小さい。
基礎データを787と比較すると、上の表のようになる。A350-800の客席数は3クラス標準配置で270席と787-8の242席より多く、航続距離も長い。1席あたりの空虚重量は787の方が2%多く、燃料消費は6%増、運航費は8%増になる。
騒音は、ロンドン空港での基準に照らして、双方同じである。
A350-900と787-9および77-200ERとの比較を示す。座席数は314席で777よりも多く、1席当りの空虚重量、燃料消費、運航費は全てボーイング機を下回る。
騒音は787と同じで、777より少ない。
A350-1000は350席。777-300ERよりも15席少ないが、航続距離にまさる。1席あたりの空虚重量、燃料消費、運航はいずれも少なく、騒音も小さい。
A350XWB実現の時期。初飛行は2011年なかば。就航はA350-900が2012年なかば、-800が2013年初め、-1000が2014年初めの予定である。
かくてA350XWBは航空界をリードする最新鋭の旅客機となる。設計は全く新しく、キャビンも翼も材料もシステムもエンジンも新しい。飛行性能は他の追随を許さず、すぐれた経済性を持つ新しい長距離機である。
以上のスライドをまとめて一表にすれば、次のようになる。
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標準座席数 |
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胴体直径(cm) |
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キャビン幅(cm) |
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最大離陸重量(t) |
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航続距離(km) |
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エンジン推力(t) |
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巡航速度(マッハ) |
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公表価格(百万ドル) |
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就航時期 |
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さらにA350XWBは将来、A350-900を基本として、超長距離機と貨物機を開発することにしており、それらをボーイング777と比較すると次表のようになる。
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座席数または搭載量(t) |
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最大離陸重量(t) |
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航続距離(km) |
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エンジン推力(t) |
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就航時期 |
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もとより筆者は、新しいA350XWB計画が実現することを願うものだが、余りに立派な特性ばかりの羅列で、内心いささか心配がないわけではない。けれども発表の翌日、旧A350を9機発注していたフィンエアが直ちに歓迎の意をあらわし、4日後の7月21日にはシンガポール航空が20機を発注することになった。実現を期待していいのであろう。
(西川 渉、2006.7.31)
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