ベルQTR具体化へ

米英で大型ティルトローター構想

 

 

 今年7月のファーンボロ航空ショーで、米英両国の軍用機に関する研究開発グループが将来の大型戦術輸送用ロータークラフトの研究を進めることになった。これまで双方別個におこなってきた研究を持ち寄り、効率的な研究作業を進めるのが目的という。

 米側では現用チヌークおよびスーパースタリオンといった大型ヘリコプターの代替機として、ロッキードC-130と同程度のキャビンに最大20トンの貨物を搭載、垂直離陸で500kmの航続性能をもつようなロータークラフトを構想している。英側もほぼ同じような大型輸送用ヘリコプターの必要性を感じていたところから、共同作業が合意された。7月27日ファーンボロの会場で両国防省の代表が調印したものである。 

 具体的な研究作業はベル社ではじまり、米政府との間に「フューチャー・トランスポート・ロータークラフト」(FTR)計画として75万ドルの研究契約が調印された。その構想によると、現用V-22オスプレイのローターおよびエンジンを流用して4発機とするもの。

 ベル社はこれをQTR(クォッド・ティルトローター)と呼び、昨年5月の国際ヘリコプター学会(AHS)で初めて模型を公開、今年の学会ではもっと具体的な構想がV-44の名前で提案された。

 それによるとV-22のローターとエンジンをC-130クラスの胴体前後に2基ずつ取りつける。エンジン出力は1基6,150shpでV-22と変わらないが、これが4基になるから合計出力は2倍。ローター直径も11.6mと変わらないが、合わせて4基になる。総重量は41トンでV-22のほぼ2倍、ペイロード9トン、作戦行動半径400km余になるという。

 しかし、これでは軍の要求に対して不十分なところがあるので、2018年までには、もう一回り大きなQTRを開発するというのがベル社の提案。つまり2段階に分けて理想の大型ティルトローター輸送機を完成させようというもので、エンジン、ローター、トランスミッションなどの動力系統に新しい技術を採り入れ、エンジン出力を7,400馬力四基に引上げると共に、ローター直径も13.4mまで拡大、総重量を57トンに増やすという。

 こうした構想に向かって、ベル社はまず基礎的な事項を確認するため、大きさ1.8mの模型をつくり、無人で飛ばす。第2段階はもっと大きな模型2機をつくり、風洞試験をおこなう。第3段階は、実機に近い大きさにして、今の無人ティルトローター機、イーグルアイ双発機の動力系統を利用しながら飛行試験をおこなう。イーグルアイは米陸軍と海軍の開発競争に参加している無人偵察機(UAV)である。

 こうした4ローター機の使用は米陸軍と海兵隊が希望している。いずれも戦場における兵站補給作戦が容易になり、兵員の移動が迅速にできる点を買っている。たとえば海兵隊の場合、海から敵地への進攻上陸作戦にあたって大型車両の揚陸も輸送船を接岸する必要がないのでらくになる。沖合に泊めた船から直接戦場へ運ぶことができる。現在はスーパースタリオンがそうした任務に当たっているが、4ローター機の場合は11トンの重量物を吊り上げ、半径320kmの範囲で輸送できる。またクラムシェル・ドアから機内搭載もできるし、60mの滑走をして離陸すれば、18トンのペイロード搭載も可能。

 機内はC-130-30と同じ大きさだから、装甲車両に加えて、コブラ、アパッチ、コマンチなどの攻撃ヘリコプターも積める。巡航速度はV-22よりも速くて530km/h。また空中給油もできる。回航空輸ならば航続距離は3,000km以上に伸びる。

 海兵隊はこれで、敵の準備した海岸線の防御線を飛び越え、海岸で敵と闘う必要はなくなり、直接奥地の戦場に到達する。同時に燃料や水も運びこんで、いきなり敵の領域内に一種の兵站基地をつくり、海上の補給船から必要なだけ補給資材を送りこむことも可能。

 一連の模型実験がうまく進めば、2002年には有人機の設計に着手する。まず3機の技術実証機をつくって、2005〜06年頃飛行する。これが成功すれば、ベル社としては2010年末までに実用機の納入が可能と考えている。現用600〜700機のCH-47やCH-53の後継機として採用されるならば、きわめて大きなプログラムになるであろう。

 ベル社によれば、こうした4ローター機は民間機にも転用できる。約100人乗りの旅客機とするもので、とりわけ最近ひどくなってきた空港混雑を解消するための手段として、今の都市内ヘリポートでも、さほど大きな改造をせずに発着できると見られる。

 ロータークラフトの将来に、また新しい楽しみが出てきた。

(西川渉、『日本航空新聞』2000年9月21日付掲載)

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