<ヘリコプター>

パリの回天

 

 パリ航空ショーの報道を読みながら、ヘリコプターのことを忘れていたわけではない。けれどもエアバス対ボーイングの果敢な闘いぶりが面白く、この1ヵ月近く、ついそれだけに集中してしまった。

 改めて、ヘリコプター関連のニュースを読んでみると、最近の原油価格の影響が出始めたことを感じる。石油の高騰は一般的には望ましくないはずだが、海底油田の開発支援を基盤とするヘリコプター事業者にとっては、むしろ好ましい結果となる。値段が上がれば石油の開発が活発になり、それが海底油田ならば必ずヘリコプターが必要である。そこで運航者の仕事が増え、メーカーへの発注が増えるというわけだ。

 1970年代の石油危機のときも、ほかの業界が蒼ざめているのに、ヘリコプター業界だけが沸き立った。毎年恒例のHAI国際ヘリコプター大会に行っても、石油関係者が多く、話題も展示も石油に関するものばかりで、ヘリコプター・コンベンションなのか石油コンベンションなのか分からないほどだった。

 今回はあの30年前のようなブームは望めないにしても、近年やや停滞気味だったヘリコプター界の勢いを盛り返す回天の機が訪れたと見ていいであろう。以下のニュースも石油開発に関連する話題が多い。

S-76へ大量注文

 最初はシコルスキーS-76が大量注文を受けたというニュース。米エア・ロジスティックス社から59機のS-76を受注した。調印は6月14日パリ航空ショーの会場でおこなわれた。59機の内訳は確定35機、仮24機。シコルスキー民間機としては史上最高の受注数らしい。

 エアロジスティックは2003年にもS-76を12機発注しており、その分は今年8月までに全機引渡しが終わる。今回発注分は、大半が今年2月の国際ヘリコプター大会(HAI)で発表されたS-76++だが、2008年以降に引渡される分は発達型のS-76Dになるもよう。

 エア・ロジスティックスはメキシコ湾の石油開発支援飛行から事業をはじめ、姉妹会社の英ブリストウ・ヘリコプター社を合わせて、世界各地で約400機のヘリコプターを運航、世界最大のヘリコプター運航グループとして石油開発の支援に当たっている。最近の原油価格の高騰によって、これから石油開発がいっそう盛んになることを見こしての大量発注と思われる。


エア・ロジスティックスのS-76

S-92にも3機の注文

 S-76の大量受注と同じ日、シコルスキー社はノルウェーのノルスク・ヘリコプター社からS-92大型双発ヘリコプター3機の注文を受けた。北海の油田開発に使われる。引渡しは2006年の予定。

 S-92(乗客19席)は2004年11月から引渡しがはじまり、主として海底油田の開発支援に使われている。量産1号機は米ペトロリアム・ヘリコプター社が受領し、現在4機をメキシコ湾で運航中。またノルウェーのノルスク・ヘリコプター社は現在2機を北海油田開発に運航中だが、2006年には3機を追加受領する。

 カナダのCHC社も北海で2機を運航中。同じくカナダのクーガー・ヘリコプター社は5月にS-92を受領し、ペトロカナダとの契約によりニューファウンドランド沖の油田に向かって飛ばしている。

 S-92の最近までの受注数は62機以上。このうち28機はカナダ政府向け。最近は韓国政府からも要人輸送用として3機を受注した。ほかに30機の仮注文がある。


ノルスク・ヘリコプターのS-76

生産800機目のEC135

 ユーロコプター社は6月14日、パリ航空ショーの会場で800機目のEC365ドーファンを引渡した。受領したのは仏へり・ユニオン社で、カスピ海の石油ガス田の開発に使用する。

 この運航は高温・高地の飛行だけに、ヘリコプターとして出力低下が少ないこと、長航続で高速飛行ができることといった条件が求められる。ドーファンN3はそれに適合した機体というのが運航者の弁。

 さらにユーロコプター社はパリ航空ショーで、新しいEC155Bを展示、ドイツ国境警備隊(BGS)に引渡した。これはBGSが発注していた15機のEC155Bの最終号機にあたる。BGSは現在、102機のヘリコプターを使って国境警備の任にあたっている。

アグスタ109ファミリー

 アグスタウェストランド社の開発してきたA109Sグランド・ヘリコプターが欧州航空安全局(EASA)の型式証明を取得した。総重量3,175kgで、PW207C(815shp)エンジン2基を装備、トランスミッションを強化している。パイロット単独の計器飛行が可能。

 量産1号機は社用ビジネス機として英国の企業へ引渡された。ほかにグランドは、キャビンが広く、ペイロードが大きいために、捜索救難、救急救助などの用途に適する。最近までの受注数は50機を超えたもよう。

 グランドの前身、A109パワー双発ヘリコプターは、エンジンをPW206Cに換装して総重量が3,000kgに増え、ペイロードも150kg増加した。降着装置も強化されている。さらに尾部ローターを複合材製として耐用時間を5倍に伸ばし、翼型を改めて騒音を減らすなどの改良も加えられた。

 A119コアラは、米フィラデルフィア工場で製造した1号機が初飛行した。PT6ターボシャフト・エンジン(1,002shp)1基を装備する8人乗りの単発機だが、ペイロードは1.4トン、巡航260q/hの高速性能を持つ。

 コアラは今後イタリアでの製造を取りやめ、その生産を全面的にフィラデルフィア工場に移管する。米本土安全保障省などにも採用されている。


コアラ

AB139も健闘

 AB139は最新の中型双発タービン機として昨年12月20日FAAの型式証明を取得した。パリ航空ショーでは初の救急装備をした機体が展示され、イタリアの運航会社エアグリーンに引渡された。

 エンジンはFADECつきのPT6C-67Cが2基。機内は乗客15人乗り。

 AB139は2005年中に20機以上が生産される予定。最近までの受注数は120機を超えた。2006年は50機の生産をめざしている。


イタリアのAB139

ベル429の開発つづく

 ベル社が開発中のモデル429双発ヘリコプターは受注数が110機に達した。初飛行は2006年、型式証明は2007年の予定。

 有効搭載量1,220kg、カーゴフック容量1,270kgで、最大262q/hの速度性能を持つ。なお現在、騒音引き下げのために尾部ローターの設計をやり直しているという。

 価格は、救急装備をして395万ドル。 


ベル429

(西川 渉、2005.7.7)

 【2005年パリ航空ショー関連頁】

   パリの余光(2005.7.6)
   パリの余熱(2005.7.4)
   パリの余照(2005.7.1)
   パリの余炎(2005.6.29)
   パリの残響(2005.6.24)
   パリの余燼(2005.6.23)
   パリの余韻(2005.6.21)
   パリの総括(2005.6.18) 
   激論火を噴く(2005.6.17) 
   受注競争と論評合戦(2005.6.16) 
   エアバスA380とA350(2005.6.15) 
   ボーイング体勢挽回へ(2005.6.14) 
   切り結ぶ両雄(2005.6.10) 
   巻き返すボーイング(2005.5.12) 
   エアバスA350に初の注文(2004.12.23) 
   エアバスA350の開発決定(2004.12.14) 

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